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旅の4
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旦那様のお仕事上の調整や、オレの学校での仕事上の調整をすませた結果、休暇を取れるまでに数週間かかった。
でも、実は新婚旅行もまだなんだって分かると、特に騎士団の方々は、随分好意的に協力してくれた。
「まったくしょうがないな、アルトは」
「どうせそんなとこだろうと思ってたけどな」
呆れたように口々に言いながら、「すみませんねぇ、奥方」なんて謝られた。
仕事の他に剣の腕を磨くことしか興味がない旦那様は、剣術バカとか言われて、呆れられてるらしい。オレだって剣を覚えたての頃は似たようなものだったし、その気持ちも分かる。
皆様には欠点に見えるらしいけど、オレは旦那様のそういうとこがスゴく好きだ。
「あのアルトにして、この奥方かぁ。お似合いでいいですねぇ」
同僚の騎士の方にしみじみ言われて、照れ臭いけどちょっと嬉しい。
にこにこ笑ってると、その騎士様が深々とため息をついた。
「あーあ、なんであんな剣術バカが、こんなモテるんでしょうねぇ」
「も、て……?」
そりゃ旦那様は格好いいし、強いし、真面目で優しくて素敵な人だけど、「こんな」って言われるほどモテてるって、聞いたことない。
それともオレが知らないだけかな? 子供たちのお母さん方と交流もあるから、噂話なら割と耳に入りやすいんだけど。
「あの、旦那様って、モテるんですか?」
首をかしげながら訊くと、同僚の方は「そりゃあ……」って言いかけて、他のお仲間の方に、ぼかっと頭を殴られてた。
「バカ、黙ってろ」
そんな風に気を遣われると、ますます不安が募るんだけど、「昔の話ですよ」って、それ以上は教えて貰えなかった。
昔っていつ? 旦那様はやっぱり、女の人にモテたのかな?
前に、女の人でイヤな思いしたって……それで、男のオレを選んでくれたって言ってたけど。モテることと関係あるのかな?
モテ過ぎて困るって、どんな感じなんだろう?
オレの周りでも騎士団の方々は人気が高いし、女の子たちがきゃあきゃあ言うのを耳にしたことはあったけど……あんな感じ? もっとかな?
オレだって男だし、これでも領民の中では剣の腕も強い方なんだけど、今までモテた覚えがない。モテる要素って、剣の腕とか家柄とかだけじゃないんだなって、よく分かる。
といっても、オレ別に、女の子にモテたいって思ってないんだけど。旦那様はどうなんだろう?
道中は、馬2頭で行くことになった。1頭は旦那様の軍馬で、もう1頭はじーちゃんちの馬。結構いい馬なんだけど、やっぱり軍馬に比べると小さく見える。
オレと旦那様も、そんな感じに見えるのかな?
「あちらのご両親に、よく挨拶するんだよ」
お父さんからしっかり言われて、いっぱいのお土産を持たされた。
王都には何でも売ってるっていうし、こんな田舎の特産物なんて、喜んで貰えるかどうか分かんない。
「お気持ちだけで」
旦那様も遠慮してたけど、あっても困らないからって、漬物とか焼き菓子とかお酒とか絹織物とか、色々用意されて馬にくくりつけられた。
行商かって程じゃないけど、長旅に出るみたいな大荷物で、ちょっと恥ずかしい。
「王都のお土産、期待してるわ」
イトコににっこりと見送られ、「うん……」とうなずく。
オレが王都に行ってる間、オレの分まで働かなきゃいけない彼女に、お土産は当然かも。忘れたらきっと、すごく怖い。
旦那様も、騎士団の見回りとか同僚の方々に色々調整して貰ってるし、気を遣わなきゃいけないだろう。
じーちゃんに用意された馬も嬉しかったけど、ばーちゃんにこっそり渡されたお金も、すごく嬉しかったし助かった。
どっさりのお土産のせいで、軽やかに速駆けって感じにはならなかったけど、旦那様と2人きりで馬で行くのは楽しかった。
2人だとやっぱり、そう会話が弾むって訳じゃなかったんだけど、一緒にいられるだけで嬉しい。
ありふれた木立も、ありふれた丘も、ありふれた農地も、何もかもが輝いて見える。
はしゃがないよう気を付けてたつもりだったけど、テンション上がってるのモロ分かりだったかな?
「楽しそうだな」
旦那様に笑われて、さすがにちょっと恥ずかしかった。
2人で遠乗りするのも楽しければ、外でお弁当食べるのも楽しい。小川の近くで寄り道して、草の上に敷物を敷いて、朝から張り切って作ったお弁当を広げる。
「いつも美味いが、外で食うともっと美味いな」
オレの料理、しみじみと誉めて貰えて嬉しかった。
結婚してから今まで、「美味い」って言って貰えたこと、あったかな?
いつも残さず食べてくれるし、口に合わないってことはなさそうだなって思ってたけど、「いつも美味い」って。ハッキリ言って貰えると、すごく嬉しい。
にこにこしながらバクバク食べてたら、呆れたように「おい」って呼ばれた。
「ついてるぞ」
くいっとアゴを掴まれ、口元をぺろっと舐められて、油断してたからすっごく慌てた。ここ、外なのに。
「ひ、とがっ……!」
言いながら、カーッと赤面してると、くくっと笑われた。
「照れるな、誰もいない」
おずおずと周りに目を向けると、確かに誰もいなかった。
しんと静かな空間に、小川のせせらぎと小鳥の声、馬が水を飲む音だけが聞こえる。
ひらひらと白い蝶が飛んでるだけ、2人きりだ。
「はしゃいでるお前は、無邪気で可愛い」
抱き寄せられて、腕の中でもっかいキスされた。今度は深くて長かったけど、嫌がるフリもできなかった。
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