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旅の10
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色々ゴタゴタはあったものの、王都滞在の4日間はあっという間に過ぎてった。
1日目は旦那様の道場で模擬戦、2日目は騎士団本部への訪問、3日目は憧れの兵学校見学、4日目の今日は買い物だ。
「4日じゃ物足りなかったか?」
旦那様に気遣うように訊かれたけど、「いえ」って首を振る。
王都は華やかで賑やかで刺激的な街だけど、人が多くてちょっとしんどい。迷子にならないよう、旦那様が手を引いて歩いてくれるけど、照れてる余裕もないくらいだった。
土地勘もないままだし、右も左も分かんない。お店で買い物して外に出ると、どっちから来たのかも、もう分かんない。
「迷子になるから離れるな」
真顔で心配されて、素直にうなずく。過保護だとは思えなかった。
買い物に出てる間、騎士団の制服じゃなかったにもかかわらず、女の子たちから声を数回かけられた。
漆黒の騎士団の制服を着こなした旦那様は、ぽうっとみとれるくらい格好いいけど、普段着の旦那様だって十分格好いい。女の子がきゃあきゃあ言うのもよく分かる。
妻同伴の男性に女の子が声掛けたりは、普通、マナー違反だと思うけど……オレは男だし、ひょっとすると友達とか従者とかに見えるのかも。
オレの地元で、旦那様に声を掛けて来る女の子がいないのは、オレと結婚してるのが広まってるからかも知れない。「ハルバードさんとこの騎士様」なんて呼ばれるくらいだし、きっとみんなに広まってる。
逆に言うと、こっちで女の子がやたらとしつこく寄って来るのは、妻を連れてるって分かんないからっていう可能性もあった。
「だったら、知らせてあげればいいのよ」って、笑顔で言ってくれたのはお義母様だ。
「みんなの前で、思いっ切りのろけてやればいいわ」
のろけ、って。旦那様の前で大真面目に言われると、すごく照れる。
オレには絶対無理だと思ったけど、意外にも旦那様は乗り気みたい。「成程な」って、納得したようにうなずいてた。
手を繋いでずーっと買い物を続けたのも、そのためだ。
「あっ、アルトさんじゃなーい」
「今日は私服なの? 格好いいーっ」
声を掛けて近付いてきた女の人たちの目の前で、オレの肩を抱く旦那様。
「悪いが、妻と買い物中だ。な?」
そう言ってオレの顔を覗き込み、目を合わせて優しく微笑んでくれた。
お義母様に言われて実行してるだけに過ぎないって、分かってても照れ臭い。カーッと赤面して、黙ってうなずくしかできなかった。
女の人たちは、「きゃーっ」「笑ったーっ」って叫んでたけど、この前とは違って馴れ馴れしく触れて来たりもなかったし、オレを突き飛ばして割り込むこともなかった。
珍しいお酒やオシャレなお菓子、最近はやりの新しい本……地元のみんなへのお土産を、旦那様と歩きながら1つ1つ買って行く。
「お前のじーさんにこれはどうだ?」
「学校のみんなにも、1個ずつ配りたいから……」
そんな風に話し合いながら買い物して、ついでにいろんな店を覗いて、それもすごく嬉しかった。
できれば地元の市場でだって、いつもこんな風に買い物できたらいいんだけど。ああ、でも、お仕事の帰りにお土産を買ってくれるのも嬉しいし、欲張っちゃダメかも知れない。
にへっと思い出し笑いしてると、旦那様に「どうした?」って不思議そうに訊かれた。
「なんでもないです」
慌てて首を振ったけど、口元が緩むのは止められない。そのまま笑ってると、優しく頭を撫でられた。
「お前はやはり、笑ってる方がいい」
耳元でぼそりと囁かれ、ドキッとして顔を熱くする。
お土産のことも買い物のことも一瞬頭から吹き飛んで、何をするにも照れて困った。
お昼ご飯はお義母様と合流して、最近はやってるっていう高級そうなお店でご馳走になった。
その後は、また買い物だ。
「ねぇ、服を買ってあげるから一緒に行きましょう」
がっちりと腕を掴まれ、にこにこ笑顔で言われて、流されるまま「はい……」とうなずく。
「済まないが、オレは別件で用事が出来た」
旦那様はそう言って、さっさと別行動を決めちゃって、ええっと思ったけど追い掛けられない。
「任せる。母の面倒を見てやってくれ」
ぽんと肩を叩かれて、「頼んだ」って言われて、その後はお義母様の買い物にずーっと付き合うことになった。
女の人の買い物が長いのは、田舎領でも王都でも変わんないんだな。
お母さんやイトコの買い物に付き合って、荷物持ちしたことはあったけど、店が多いだけに王都の方が大変だ。
今回は、オレと旦那様の服を買って貰う訳だから、断れないし逃げられない。さんざん着せ替え人形にされて、参ったし疲れた。
けど、悪いことばっかじゃなかった。
「アルトは機能重視でしょう? 着れれば何でもいいって言うし、任せると無地で、汚れが目立たない色ばかりを選ぶから、張り合いがないのよね」
お義母様のぼやきに、「そうですね」って深くうなずく。
前に新しいシャツを用意しても、気付いて貰えなかったり、着て貰えなかったりしたことあったけど、昔からそうなんだって教えて貰えて納得した。
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