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現実
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ますます颯人の事が好きになっていたからこそ、どうしようもない憤りを感じていた。
(颯人の好きな奴が憎い!!)
自分がいくら手を伸ばしても掴むことが出来ないのに、後から来た奴に颯人を差し出さなければならないなんて…。
(あ~~~~~っ!!!)
イライラと不安が混じって、感情の整理が追いつかない。
「茉莉ちゃん…大丈夫?」
生徒に会う度に心配する声で言われて、恥ずかしくなった。
(駄目だ…)
「大丈夫!」
笑顔で答えた。
(何が…"大丈夫"なものか)
言ってる事と、思っている事が真逆だ。
(颯人は、わからずに言うしな…)
昨日のまだ5月の中旬頃に、初めて颯人がレッスンに決めた曜日を変えて欲しいと言った。
「6月初めの火曜じゃなくて、次の日の水曜にして欲しいんだけど…」
「…8日?」
「ん、そう。どうしても仕上げなきゃならない服があって」
一瞬、躊躇った。
「いい、よ」
6月8日は…俺の誕生日だ。
(覚えているはずも無いのに、な)
祝って欲しいと思う反面、その日がレッスン日になってしまったのが嬉しかった。
(颯人と誕生日に一緒にいられる!)
全校生徒の授業を見ている中で、ちょうど颯人のクラスで授業があった。
幼少期に色々な外国に暮らしていたので、"英語"、"フランス語"、"イタリア語"、"ドイツ語"、"スペイン語"、"オランダ語"、"中国語"、"韓国語"、"マレーシア語"、"ロシア語""が教えられる。
進学校としては有難い事に、十か国語もわかる卒業生ということもあり数人雇う事もなく迷う事もなく、教諭資格を取った後に茉莉はすぐに母校に採用された。
日本に颯人がいるので嬉しかった。
でも、会う覚悟は正直なかった。
(別れも連絡先も伝えられない、ヘタレだしな)
いつも通り少し早めの時間に教室のドアを開けると、颯人の席に1人の生徒がいた。
(っ!距離感、間違ってないか?!)
席に座っている颯人の肩を抱き、1人で勝手に話しているソイツを見た。
(…確か、垣内なんとか)
苗字があ行から始まる席順だから、颯人の前の席が同室の柏原、そしてその前の席なので何となく覚えていた名前だった。
颯人に触れているというだけで、苛立たせる。
「ほら、授業するぞ~!!」
突然の茉莉の大きな声で、生徒は驚いてバタバタッと慌てた。
「茉莉ちゃん、早いって!」
(…いつも、こうなのか?)
この前の授業で、颯人と一緒にいる所は見ていなかった。
(柏原とは、前の席だし中学が同じで部屋も同室だから、何度か一緒にいるのは見ているけど…)
茉莉は愁をチラッと見た。
柏原愁、入学試験でほぼ満点の数字を出した生徒会長候補。
茉莉は生徒会の顧問なので一応、候補生の目星はつけていた。
きっと来年の生徒会長は、柏原愁だろう。
茉莉も在学中に、この学校で生徒会長になっていた。
勿論、その時から茉莉は颯人が好きだから姫がいないという、前代未聞の地獄の2年間を当時の生徒に過ごさせた。
伝説の生徒会長として、受け継がれている。
颯人の同級生になりたかった。
そうしたら、自分が生徒会長になり、この学校の姫に颯人を…。
(卒業してもずっと一緒にいられるわけ、だろ?)
子供じみているなと思い、茉莉はこっそりため息をついたのだった。
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