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及国
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今日は2月7日。一週間後…2月14日は、バレンタインデー。何とかの記念日だか何とかの処刑された日だか何だか知らないが、日本では製菓会社の陰謀に人々が踊らされる悲しいイベント。
俺は、好きじゃない。
それも、別に俺はモテない訳でも恋人がいない訳でもない。今年は恋人と付き合い始めてから初めてのバレンタインデーで、寧ろ張り切るのが普通なのだろう。
だが俺たちは、普通じゃない。
俺の恋人の名前は及川徹。成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能、人当たりも良くて努力家、さらに気も使える、側から見れば完璧人間のような男だ。
そんな男がモテない訳がなく、中学の頃のバレンタインデーもまさに彼の独壇場のようだった。
男同士という本来認められない関係の俺達は、恋仲であることを公にすることも出来ず、表向きはただの先輩と後輩。とはいっても金田一と岩泉さんは知っていて、花巻さんや松川さんももしかしたら気がついているかもしれないが、世の及川さんに想いを寄せる女子達はそんなことは知る由も無い。
つまりはフリーだと思われているモテモテな及川さんは、昨年まで同様、沢山のチョコレートと共に告白やらなんやかんや受けるのだろう。
悔しい訳じゃない。悲しい訳でもない。…けど、少しだけ、思う。
もし俺が女で、及川さんに釣り合うほどの人だったら、堂々と及川さんは自分のものだと言えるのに。
手の中のハート型のチョコレートの入った可愛らしい箱を睨み、置く。
恋人同士や、男女のイベントがある度に不安になるんだ。こんな可愛げも柔らかさもない俺なんかより、及川さんにはもっといい人がいるはず。もし同情で付き合わせて、俺が及川さんの自由を奪ってしまっているなら…こんな関係は、終わりにした方が良いんじゃないか。
じわ、と瞳に浮かぶ涙を服の袖で拭った。俺は、貴方の気持ちがわからない。
***
今日は2月14日。バレンタインデー当日。教室へ行けば皆どこか浮き足立っていて、きゃぴきゃぴしている女子…そわそわしている男子…中には全く変わらない日常を過ごしている人もいるが、希少だ。
その中でどれとも当てはまらない俺は、変わらぬ日常を装って席に座る。そしていつも通り机に突っ伏した。
「あのっ、く、国見くんっ」
「……何?」
突っ伏した側から声を掛けられ、少し不機嫌になりながらも顔を上げた。俺を呼んだのはクラスの女子。…名前は忘れた。
茶色のふわふわとした髪を二つに結って、清楚系のナチュラルメイクをばっちり決めた女子は、顔を赤らめもじもじしながら意味のなさない言葉を紡ぐ。
「……何か用?」
一向に話しだす様子がないため、俺が不機嫌を隠すことなく問う。
「あのねっ、放課後、もし良かったら、少しだけ時間、くれないかな?」
「……放課後は用事あるから」
「ほ、本当に少しだけでいいのっ」
「…今じゃ駄目なの?」
「…あ、あの、ここじゃ、ちょっと…」
ここまで言われれば、いくら俺でもわかる。
少し後ろから見てる、この女子の友達らしき人達の視線が面倒で、ため息を吐きたいのを頑張って堪える。
「わかった。じゃあ昼休みでいい?」
「!うん!ありがとう!校舎裏、でいいかな?」
「うん」
ありがとう!と言って去っていく女子。見ていた人達のもとへ行くと何やらきゃぴきゃぴと話し出す。
俺は特に興味も無くまた机に突っ伏した。
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