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序
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元禄十年、今は廃屋となっている山小屋で、その二人は一夜を過ごす事に決めた。彼らは、江戸を出て上方に向かう途中であった。だが旅をしている割には、一人は羽織袴に、もう一人は袴に振り袖を着ている。
彼らは、逃げてきたのだ。全てを捨て、許されざる愛を貫こうと。
「疲れたか?明桜どの」
「いいえ。ですが、蕪木の父と異母弟が今頃どんなお咎めを受けているか……」
明桜と呼ばれた男の連れは、花のように美しい少年であった。
明桜の言う事は、最もだろう。主君への裏切りは、許される事ではない。蕪木明桜は主君・橘日向守主膳の小姓、帯刀伊織はその主膳に使える家臣である。武家の出ならば、切腹は免れぬ。その二人が、手を取り脱走した。主膳と言う男は直参の名にかけて二人を捕らえようとするだろう。現に、橘日向守主膳は見つけた者には百両出すと言い、男は殺してでもその小姓だけは連れ戻せと言っているらしい。
明桜は、橘日向守主膳の色小姓にさせられていた。
「心配はいらぬ。私の知り合いに柳沢さまに顔が利く方がおられる。その方に書をしたためておいた。いくら殿でも、柳沢さまが背後におられるとならば、お二人には手は出せぬ。」
柳沢さまとは、将軍お側御用の役に就いているかの、柳沢吉保である。
「帯刀さま」
「もう自分の為に生きても良いのではないか?」
帯刀は、明桜の躯を抱き寄せ唇を浚った。元服せぬままに伸ばされた黒髪は、前髪を下ろし耳の間から一房づつ胸元に垂れらして、残りは高く束ねて腰に垂れている。
肌は白く、紅い唇が忽ち妖しく濡れた。橘日向守主膳でなくとも、明桜の美貌に魅せられる男は多いだろう。だが帯刀のそれは、主君のような欲望を満たすだけの存在ではなかった。真剣に、明桜を愛しているのだ。それは、明桜も同じだ。彼は、人から愛される事を知らぬ。妾めかけの子として生まれ、母は常に何も望んではならぬと幼い緋緒に言い聞かせた。何も望まず逆らわず――、十六年の半生で明桜は、その教えを決して破る事はなかった。そんな明桜が帯刀と出逢い、結ばれるなど誰が予想したであろうか。
「帯刀さま、どうか私を何処までもお連れくださいませ」
「そのつもりだ。もう躊躇わぬ」
再び重なる唇に、明桜は素直に帯刀の背に手を回す。
帯刀は唇をゆっくりと明桜の首筋に移動させながら、明桜の袴を解き、振り袖を下ろした。
「あっ……ん、帯刀さま」
白い肌に映える乳輪を口に含まれ、明桜はもう待てぬと言わんばかりに帯刀の手を足の間に導く。
「やっと、そなたを我がものに出来る」
「帯刀さま、私も嬉しゅうございます」
「地獄に陥ちると言うのなら、伴に陥ちようぞ」
「帯刀さま……、あっ、あ…」
帯刀の顔が、明桜の股間に埋まる。
満たれる悦に酔いながら、明桜は父と異母弟を想う。さぞこんな息子を、こんな異母兄を恨んでいよう。もうこの躯は、男なしではいらなくなった。
「明桜、いいな?」
充てがわれる肉魂に、明桜は小さく頷いた。
「あぁっ――……」
傍で燃える火が、禁断の愛に身を投じた二人の想いを投影するかのように燃え上がった。
◆
蕪木明桜が、旗本・橘日向守主膳の邸に小姓として召されたのは、一年前の事である。蕪木家は、橘日向守の家臣の家であったが特に役に就く事はなく、他の家臣からすれば下に位置していた。
「もう、春か……」
橘邸の蔵で書の整理をしていた明桜は、天窓の格子越しから桜の花弁が舞うのを見た。
奥書院御用と言う役を命じられた明桜の仕事は、主に書に関わるものだ。蔵には万葉集から古今和歌集、枕草子や源氏物語など何度も写されたであろう書が収蔵され、それらが色褪せぬ内に新しく書き写すのと、整理が緋緒の仕事であった。元々、書が好きであった為、苦ではなかったが。
「――昨夜は、随分激しかったようだな?明桜どの」
「戸塚さま、どいてくださいませ」
「下級武士が、殿に取り入る為に我が子を色小姓に召しだすとは、な」
入り口を塞ぐように立っていた戸塚は、明桜の片手を捕らえフンと鼻を鳴らした。自分の事はともかく、父のことを罵られるのは我慢ならなかったが、戸塚は蕪木家より身分が上である。しかも、橘日向守主膳の片腕であった。唇を結んでいると、それが戸塚を刺激したらしい。片方の手が、明桜の袴の上からそれに触れてくる。
「戸塚さま……っ」
「殿に、昨夜は何度可愛がって貰った?」
「おやめください……!」
「誰も来やしないさ」
大胆になる手は、強弱をつけながら明桜自身を揉んでくる。ここは、御家来衆も滅多に来ぬ。叫んだところで、主君へのお手つきの色小姓が、また殿のお召しになったと無視をするだけだ。それよりも、この邸には明桜の本来の立場を知らぬ異母弟・蕪木菊之丞がいる。共にに小姓として召されたが、菊之丞は主君の手がつく事はなく、己の仕事を熟している。菊之丞は、異母兄が陥とされた色地獄を知らないのである。
「やめ……」
「戸塚どの――!」
戸塚が、弾かれるようにその声に振り返った。
「……帯刀伊織……」
「何をしておいでか!?」
「私は何も……。、緋緒どのを手伝うと思ったのだ」
帯刀伊織は、戸塚に並ぶ橘日向守主膳の懐刀である。帯刀のお陰で、戸塚に犯されずに済んだ明桜であったが、彼の地獄はこれからであった。
奥書院は邸の最も奥に位置し、許された者しか入る事は出来ない。玉砂利が敷かれた小さな庭を右に見て廊を進むと、離れに通じる渡り廊下に出る。奥書院は、その離れにあった。
「――遅かったのぅ」
障子を開けると、銀糸を贅沢に使った羽織姿の男が書を捲っていた。髪は白髪が交じり、やや小太りである。邸の主、橘日向守主膳である。
「申し訳ございませぬ。片付けに手間取っておりました」
「まさか、儂から逃れる口実ではあるまいの?」
「とんでもございませぬ。お殿さま」
橘日向守主膳は、目を通していた書を閉じると、指で明桜の顔を上向かせた。
明桜は十六となったばかりだが、まだ元服はしていない。所謂、一部を剃り若衆髷に結われるのが元服前の男子だが、緋緒は前髪を下ろし、両耳から一房づつ垂らした以外の黒髪を高く束ねて腰に流している。元結は纏う振袖の地色似合わせた組み紐で、白い肌に紅い唇が映えた美しい少年であった。
「まぁよい。そなたがおかしな事をすれば、菊之丞が同じ目に遭う。あれも、中々の美童じゃ」
「異母弟は、お許しを。お相手は私が致しますゆえ」
「ならば逆らうでない。よいな?」
主膳は、そう言うと明桜の袴の結び目を解いた。
「殿!」
「――帯刀、まだいたのか?下がれ」
帯刀が命じられるまま踵を返すのと同時に悩ましい声が聞こえてくる。
「お殿様さま……、なりませぬ……、こんな時間……、まだ早うございます……、あっ、お殿様……そこ……、あ、あっ、……」
帯刀は、ぐっと拳を握り締めた。今は下剋上の時代ではない。主君の乱行を諫めようと言う者はこの邸にはいない。皆、腹を切るのが怖いのだ。
明桜も好きで、主膳に身を任せているのではない。実家・蕪木家を護る為、異母弟・菊之丞の将来の為、この屈辱に耐えている。自分さえ犠牲になれば、何もかも今まで通り――、幼い事から学んだ処世術である。解かれた振り袖の上で、秘孔をグチュグチュと犯す主膳に組み敷かれながら、明桜は去っていく帯刀の背中を見た。
「緋緒……挿入れるぞ」
「あぁっ……、ん……お殿さま」
深く挿入った主膳のモノが、緋緒を容赦なく犯す。
(これでよいです。帯刀さま)
小さくなっていく足音に、明桜はもうこの地獄から抜け出せぬと覚悟した。この時、二人で逃げるとは明桜も帯刀も思いもしなかったのである。
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