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「また手紙か?」
「うん」
「しかし毎月欠かさず来るとはねぇ~、今は無期に仮釈はつかないのに」
「みたいだね」
「俺達はこうしてこのまま塀の中で死ぬのを待つしかないんだよな」
「うん」
和海は毎月必ず面会に来てくれた
手紙も欠かさず出してくれた
それだけが心の支えだった
和海がいなければとっくに狂っていたかも知れないね
「そろそろ寒さも辛くなるな~」
「うん」
俺には空しか見えない
雲しか見えない
時折飛んでいる鳥しか見えない
塀の外は決して見えない
でも俺には和海がいる
それだけで頑張れる
「230番、面会だ」
「はい」
こうしたやり取りはもう何十年続いているだろう
「和海、わざわざありがとう」
「楓、お体は大丈夫ですか?」
「うん、和海は?」
「私は大丈夫です」
「・・・・・・・・・・・・」
「楓?」
「お互い年を取ったなって」
「そうですね」
「俺の髪も白髪まじりだし」
「私もですよ」
「うん」
「寒くなりますので風邪には気を付けて下さいね」
「わかってる、和海もね・・・お互いもういい年なんだし」
「そうですね」
そんな会話をもう何十年続けただろう
でも心は穏やかだ
「楓・・・申し訳ありませんが来月は来れないかも知れません」
「うん、ここは遠いし無理しないで」
「申し訳ありません」
「ううん、和海には和海の生活があるんだし」
「でもまた再来月には必ず来ますので」
「ありがとう、その気持ちだけでいいよ」
「手紙も書きます」
「うん」
「では・・・また」
「ありがとう、また」
それが和海を見た最後の日になった
「お前、優しくなったな」
「そうですか?」
「ああ、年を取ると棘も無くなるのかねぇ」
「そうかも知れませんね」
「あっ・・・」
突然眩暈がした
「すみません」
「大丈夫か?」
「眩暈がしただけです」
「気をつけろよ」
「はい」
俺はその時、病気にかかっていたらしい
最初は無理をして作業をしていた
でも俺は倒れてしまった
病名は誰もが知る白血病
病気になったからと言って刑期が軽くなるわけじゃない
ただここで死ぬのを待つだけ
和海は面会に来なくなった
やはり待ちくたびれてしまったのかな?
仕方ないよね
今までの時間を感謝しているよ
大切な時間を使わせてしまった事にね
そして俺はずっと寝たきりになった
見えるのはやはり青い空と雲だけ
でもここからは桜が見えた
庭の桜が満開だ
綺麗だな・・・・・
後悔はしていない
むしろ今は安らかだ
和海がいたから頑張れた
今までずっと頑張れた
だからもういいよ
俺の事はもういいから和海には幸せになって欲しい
「花びら・・・」
綺麗な桜を見つめながら静かに目を閉じた
俺の人生、後悔はあったけど今はもう全てが無だ
「和海・・・・・俺はずっと愛してるよ・・・迷惑だろうけどひっそりと愛し続けるよ」
意識が遠のいて行くのがわかる
「楓!おい、しっかりしろ」
その後の事はもう覚えていない
でもとても安らかだったのは覚えてる
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