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第六章 海音寺(11)
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海音寺がまだ幼いころから、海音寺の母親は、多情な父に振り回されていて、いつからかアルコール依存症に悩まされるようになったらしい。
都心にある海音寺の実家から離れた、隣県の依存症専門のクリニックに、亡くなるまで何年間も入退院を繰り返すようになる。
退院して実家に帰ってくると、父は家に寄り付かなくなり、それが原因で母親はまたアルコールに手を出し、ふたたび入院するまで、理由もなく、海音寺を罵ったり、暴力を振るったりした。
そして、海音寺は、このままでは自分もおかしくなると思い、なんとか家を出るために、この全寮制の明頌に入学した。
一度話し始めると、海音寺の話は、どこにも終点を見つけられないように、思いつくにまかせて、いつまでも続く。
俺は、こんな深刻な話を打ち明ける相手に、どうして俺を選んだのか、と戸惑っていた。
海音寺には、俺より親しく付き合っていると思える友人が何人もいたし、海音寺にベタ惚れの彼女たちのひとりでもよかったはずだ。
海音寺に対して、格別の感情を持ち合わせていない自分には受け止めかねるほど、重すぎる話だと正直思った。
俺はそんな戸惑いを隠して熱心に聞いているふりを続けていたつもりだったが、きっと海音寺には伝わっていたと思う。
すべての追想がつきて、ついに話が終わったとき、最後に、「悪い。迷惑だったな」と海音寺は自嘲気味に言った。
俺は、途端に、自分が海音寺の告白を厄介ごとに感じていたことが申し訳なくなり、秘密を交換することで、それを埋め合わせるような気持ちで、誰にも話したことのなかった、自分の家族の話を海音寺に打ち明けた。
映画監督をやっていた父と女優だった母のことだ。
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