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第十一章 三学期(7)
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「気になる?」
桐谷さんはそう俺に尋ね返して、しばらく返事をせずにひとり食事をつづけた。そして、俺が待ちきれなくなって、もう一度同じ問いを繰り返そうかと口を開きかけたころ、
「今、部、休んでるよ。俺が、休ませた。飯ちゃんと食ってんのかも、ちゃんと寝てんのかも、わかんないし、部活動中に倒れられても困るから」
と言って、俺を正面から見据えた。
桐谷さんの言葉を聞いて、頭が真っ白になった俺は、しばらく身じろぎもできなかった。
だが、急に、こんなところで自分は何をやっているんだ、という気持ちがわき上がってきて、ふっと立ち上がり、そこで、自分が嶋田のもとに行こうとしていたことに、そして、そんなことが許されるわけがないことに気がついて、また、椅子に腰を下ろした。
そうして俺は、もうどうしていいかわからなくなって、両手で顔を覆い、胸の中に起こった嵐を何とかやり過ごそうと耐えていると、
「馬鹿だなあ。ほんとに馬鹿だよ、お前。そんなんだったら、なんで別れたりしたの」
と、あきれたように桐谷さんがつぶやいた。
「見限りたくなりますか」
「ん?」
「俺、桐谷さんには、もう愛想つかされてると思ってたから」
俺がそう言って、桐谷さんの方を上目に見ると、
「俺が愛想つかしたら、お前、ほんとに友達いなくなるじゃない」
と言って、桐谷さんは、少し困ったような顔をして笑った。そして、続けて、
「もうでも、やっちゃったことはしょうがないよ。なるようになるしか」
その言葉は、まるで間違ったことをした俺を慰めるような言い方だったので、俺は不安になって、口を開く。
「俺、嶋田は大丈夫だと思ったんです。海音寺には、俺しかいないけど、嶋田は」
「それ、お前が決めることじゃないから」
それまでにない厳しい口調で桐谷さんにはっきりと言われ、俺は動揺した。
俺は初めて、間違っていたのだろうか、と思った。海音寺は、ほんとうに、ひとりにできなかったのか。嶋田はほんとうに、ひとりにして大丈夫だったのか。
俺が黙ってそう頭の中で自問を繰り返していると、桐谷さんは、そんな俺を見てため息をつき、
「まあ、お前の言ってること、わからなくもないし。なるようになるよ」
とまた少し、俺を慰めるように言って、窓の外を見た。
朝の予報通り、戸外では春一番が激しく吹き荒れている。俺は、その中に立って、思いきり、風に頬を打たれてみたかった。
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