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十四
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連れてこられたのは高層階のスイートだった。ゴージャス、いや最近はラグジュアリーと言うんだったか・・・。窓から見える「これぞ横浜」な夜景はキラキラ煌めいているが、今それを楽しむ余裕はない。
「あんたいったい・・・。」
「私は・・・。日本人には発音できないな。日本的に読めば皓月。」
「コウゲツ?」
「君と同じマフィアだよ。」
同じ・・・と言われても。向こうは絶対にキレ者で、バリバリと仕事をこなしているに違いない。
人だってあっさり殺しそうだし、それを何とも思わない人間だ。
鋭い眼光は日頃見慣れた種類のものだから、この男が内に秘めているものが暴れ出すとどんなことになるのか容易に想像できる。
「私が怖くないのか?」
「怖く・・・ないな。綺麗だと思うけど。」
そんなことを言うつもりはなかった。でも本当にこの薄暗い部屋に立つ姿は夜景を背負い、映る光と同じように輝いている。俺にはそう見えたのだ。
「そうやって夜空を背中にしていると、本当の月みたいに・・・みえる。」
「面白いことを言う・・・。」
静かに男は俺に向き合い、そっと頬に手をあてがう。
冷たいと思い込んでいた肌は意外に温かく、思わず手のひらに頬を寄せてしまった。
射抜くような瞳がゆらゆら揺れ、そこに自分が映りこんでいる事に何故か興奮が沸きあがる。
「俺をどうしたいの?」
「ウサギは月とともにあるべきだ。」
「月の中で餅つけってこと?」
「それは日本のウサギだ。私の所のウサギは不老不死の薬を作っている。」
手のひらに唇を寄せる。
「それで・・・どうしたいの?俺が欲しいの?」
「だから、ここにいる。」
いきなり唇を塞がれた。戸惑いがちに唇の上を滑っていた舌が意を決したように意志をもって捻じ込まれる。舌に感じるヌルっとした触感に背筋がゾクリとした。
咥内を這いまわる舌は初めてオモチャを手にした子供のようだ。あちこちをつつき、舐め、別の場所に移動する。馴れているのか稚拙なのかわからない動きに翻弄され、欲望が首をもたげ始めた。
とても安心するキスだ・・・感じさせてやる、そんな押し付けがましいものではない。
相手を感じようとするキス。
何かを確かめようとするキス。
身体はどんどん熱くなっていくというのに、何故か心はポカポカと温まり目じりに涙が滲んだ。
俺が待っていたのは、この男なのか?
生きていくべき場所に連れて行ってくれるのか?
唇が離れていく。
名残惜しそうに唇を一舐めしたあと、頬を包まれ覗き込むように顔が近づく。
「目が赤いよ・・・私のウサギ。」
「もっと・・・安心させてくれ。」
「安心?」
「あんたに触れると、心が喜ぶんだ、何故かね。だからもっと・・・。」
触れるだけのキスが施され耳元で囁かれた。
「待っているから、綺麗にしてきなさい。」
目じりから一筋涙が零れた。
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