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二十一
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小さなコインロッカーの鍵は、今回の私の目的である香霧の動向を記した情報を隠した場所だ。
何処のコインロッカーなのかはメッセージが伝えてくれるだろう。
私の「銀狼」たちは役目を背負い潜りこんでいる。いつ役に立つことになるのか知らずに潜み、黙々と働いているのだ。敵対する組織、そして仲間内・・・。
香霧もまさか小さい時から自分の傍で仕える男が私の狼だとは思ってもいないだろう。数年前から閨をともにする仲になっていれば尚更だ。厳しい時も甘い時間も共に過ごす相手によって自分の行動が筒抜けになっていることを知ったら、香霧は何を思うだろうか。
そうでなければ香霧の動きをここまで把握することはできなかった。
月に向かって遠吠えする狼の群れ。夜の闇の中を自由に駆け巡り、己の獲物を執拗に追い回す。
獰猛な牙をもつがリーダーには忠誠を誓う。
私の一族は大龍の地位を得ることをずっと願い、そのためだけに血を繋げてきたといってもいい。一番近いところに登ったのが父であったが、残念ながら現大龍に競り負けた。
心の広い人間として雄大な男だった。しかし優しい心根が災いし、非情であることが必須である大龍の座を逃したのだ。
そして「月」を拠り所とする一族の影として存在しているのが「銀狼」だ。月に寄り添い満ち欠けと同じように動き嗅ぎまわる。
彼らが月に姿を晒すことはほぼない。その時の長が時折顔を見せるだけだ。
現在「銀狼」の長は、私が知っている男から代替わりしていないので、父の時代からそのままなのだろう。文書を携え予告なく訪れて去って行く。私の部屋に通じる秘密の通路から出入りするため、屋敷の者もチャウでさえ「銀狼」を知らない。そう、この存在は私達一族の守るべき秘密なのだ。
届けられた文書が本物であるか否かは薬品によって確認される。「月の雫」と呼ばれる蒼白く濁った液体を紙の右隅に数滴たらす、そこに浮かび上がるのは狼の足跡。
真っ赤に染まる狼の足跡が浮かび上がると、その文書は狼がもたらした真の情報ということになる。
いつ始まったのかしらない、何百年にも渡って繰り返される一族のしきたりと秘密。
この日本に何頭来ているのか、それは私にもわからないことだ。
来ている事は確実、もちろん香霧の傍にいる狼もここに居る。
今も何処かに潜み、私の背中を守っている。
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