アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
二十三
-
世の中は「同時銃撃事件」でもちきりだった。部屋でゴロゴロしていた俺はニュースをほとんど見ていなかったから、浦島太郎の気分だ。
ヤクザより凶暴な組織があるのかと妙に感心し、犯行声明が親しみやすい文章であることに呆れた。
この愉快犯に大義も何も感じられなかったし、遊びの延長が大騒ぎになりまして困っちゃった。そんなことを言いそうな連中だと勝手に想像する。
皓月が何か企んでいるのだとしたら、丁度いい。
世間の目はテロに行き、ヤクザや麻薬、香港のことなど思い出しもしないだろう。
本家に戻り最初に庭をみる。当然手入れする人間はおらず、三下にでも云いつけておくべきだったと後悔した。水枯れ寸前の庭にたっぷり水を蒔き「悪かったな、次からちゃんとするから、機嫌を直してくれよ。」そんな言葉を掛けながら庭の植物の点検をする。
庭に面した廊下を通る組員が目を逸らしながら足早に歩いていくのを何度も見た。
そりゃあ気まずいだろうな、オヤジの息子が花にむかってブツブツ話しかけているなんて、ヤクザの目には異様にしか映らない。
皓月の所にいけば、これが日常になる。「信用できる人間がいない中でずっと生きてきた。」皓月はそう言ったのだ。「疑うことを繰り返すと、信じることがどういうことだったのかを忘れてしまう。」
そこにある人生はいったい何色なのだろうか。
トップに立てば、逆らう人間がいなくなり物事がもっとスムーズになるのだろうか?
いや、逆だろう。引きずり降ろそうとする人間はどのポジションにいようが存在する。
昨晩の会話が頭に浮かぶ。
「血にまみれた姿で帰ってきても、ヨシキは私を抱き締めるだろうか?怯えて逃げるだろうか。」
「逃げないよ。ちゃんと抱きしめる。」
「その時になってみないとわからない。」
「一緒に風呂に入って綺麗に洗ってやるよ。それに、それが皓月の生きる道であり術なのだろうから、嫌とか怖いとかそういう問題じゃないと思う。
俺は俺のできることをするさ。綺麗に洗い、同じベッドに横になって朝共に目を覚ます。
一日の終わりと始まりを皓月と共にするよ。
その時間だけは、誰も疑わなくてもいい。俺を信じて安心すればいい。」
目を見開いた皓月は、しばらく何も言わず空を見詰めて佇んでいた。
今までそんな当たり前のことを言ってくれる女はいなかったのか?
そんなふうに思える相手はいなかったのか?
考えてみれば、俺だってこんなこと誰かに言ったのは初めてだ。
思い出すと少し恥ずかしい。
俺の間違って生まれたのとは違うけれど、皓月も随分寂しい生き方だ。
俺が笑って花を愛で、信じられる人間として皓月が望むなら、それをするまでだ。
少し寂しさが減るだろうか。
いや、減らしてやる、それが俺の役目だ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
24 / 75