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二十五
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結局タクシーに乗り、運転手に行き先を聞かれて口からでたのは「横浜」だった。
オヤジの隣の部屋に帰る気にはならなかった。権田の為になるとはいえ、嘘をついている後ろめたさもあるし、やはり今の自分にとっては皓月の隣こそが居場所だ。
ホテルの部屋の前には男が一人立っていた。何度か顔を見たことがあるが、あきらかに俺の存在を疎ましく思っている。そりゃそうだ。皓月には綺麗な女がふさわしいと考えるのが普通だろう。いくら女顔だとはいえ、れっきとした男で子供を産むこともできない。
日本人の男と寝るだけでも嫌だろうが、おまけに香港に連れて帰るという皓月に怒りをぶつけるわけにはいかない。上の言うことは絶対だろう。
だからすべての怒りが俺に向けられて当然なのだ。
「GO HOME」
静かな声だが、強い口調だった。英語ができない人間でも何を言わんとしているか明らかだ。
お前はここに居るべきではないと言いたいのだろうが、そういうわけにはいかない。
あいにく俺は英語も広東語もできないから日本語で言ってやった。
「それはできない。俺をみつけたのは皓月だ。」
「I can’t speak japanese」
「I think this is my destiny・・・Moon&Rabbit」
見開かれた目が憎悪に濁った。本当はもっと言ってやりたいが、あいにく俺の英語力はこれが精一杯だったし、どんなに言葉を重ねても平行線で終わることは目に見えている。
舅にイビられる嫁の気分だな・・・あっちの使用人にも同じように疎ましいと思われるのだろうか。
それでも構わない。
生まれてからこの方、そういう雰囲気の中でずっと過ごしてきたから今更だ。
皓月が俺を必要としてくれるのなら、それで充分。他の人間に好かれなくても問題はない。
あいにく強い言葉に怯えるヤワな女じゃないんだよ、俺は。
そんな言葉を視線にのせて睨み返してからキーを滑らせ部屋に入った。
「そんなに気に食わないなら、殺せばいい。そうなったらアンタが皓月に殺されるだろうけどな。」
ドアが閉まる直前、強い口調で言ってやったが理解できないだろう。
仕方がないさ、このまま一生仲良しにはなれない間柄なのだから。
音もなく締まるドアの隙間に見えた男の目。
憎悪と怒りに燃えたそれは、本当に俺を殺すことを考えている・・・そんな目だった。
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