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三十六
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大龍に引き留められている間に溜まりこんだという書類を持ってきたのはチャウだ。
半ばあきれて、お前のせいでもあると言ってやろうと考えたが止めにした。私は何も知らないと思っているはずだ。チャウは香霧が兎を狩ったという知らせが入ることを待ち望んでいる、首を長くして。
おとなしく仕事をしている私を見て僅かに笑みを浮かばせた。隠しきれない期待感に覆われたチャウは私の本心を探ることさえしない。
いつも茶を運んでくる若い男が入ってきた。チャウは顎をしゃくって茶をだすことを指示し私に背をむける。しずしずと進んできた若者は盆の下から薄いスマホを滑らせてきた。
素早く受け取り顔を見上げると、わずかな目くばせと目礼が返ってくる。
まさかな・・・気が付かなかった。お前まで狼だったのか。
彼が出ていきチャウと二人残った私は、ためらうことなく電話をかけた。もちろん相手はヨシキだ。
『もしもし。』
「hello」
電話の向こうでヨシキが息をのんだ音が聞こえる。そして安堵のため息が続き、随分緊張した幾日かを過ごしたのだろうと可哀想になった。
ガサガサと衣擦れの音がしたと思ったら、いきなり強い口調が聞こえてくる。
『皓月!なんたる為体だ。こっちは面倒を押し付けられて迷惑極まりない!』
電話口に響いたのは斉宮の声だった。ヨシキから電話をとりあげたに違いない。これほど頭に血が昇った斉宮を知らない私は心底驚いた。
『チャウが傍にいるということか?』
相変わらず察しのいいことだ。ということは何らかの結論を導きだし、チャウが大龍にヨシキの存在を伝えたことも推測済ということだろう。チャウの事を気にしたことなど一度もないのだから。
「Just tell me the exact situation.」
『現状を伝えろ?ですか・・・まったく。
どうでもいいが、大龍は相当手のかかる男のようだな。おまけに人を舐めるのも大概にしろと言ってやりたいですよ。随分権田をバカにしている。』
「I can't agree more.」
『芳樹にメールがきました。ローマ字表記の日本語文で、ホテルに泊まり翌日出国しろという内容。
皓月にしては雑すぎますから行かせなかったわけです。貴方が無事芳樹を出国させ香港でピックアップできるのか、それを大龍は眺めているわけだ。権田の扱いは足手まとい程度、オヤジさんも怒り心頭です。』
私がそんな軽率な指示でヨシキを出国させるとでも?誰もつけずにか?そしてそれを権田は見過ごすと考えたのか?
チャウは電話をしている私をじっと見つめている。
その携帯はどこで手に入れたのかと訝しんでいるに違いない。
『それと、ホテルで仮装行列をして、貴方の部下に接触しました。芳樹の傍に貼りついていますよ。いかつい男とかわいい顔をした男が。』
狼を釣ったと?聞かれた事以外は何も言わないのが狼だ。日本にいる狼はどうしている?そう私が問わない限り無駄口は叩かない。白牙は閃がヨシキを守っていると言ったが、それが権田の屋敷内だとはな・・・。斉宮、お前と話すのは実に楽しいじゃないか。
「Wait a minute」
耳元から電話を離し、チャウの視線を見返してやった。
「少しかかりそうだ、外してくれ。あと緑の館の変更点を聞きたい。30分後にここへ。」
「かしこまりました。差し出がましいようですが、どちらに電話を?」
「決まっている、アメリカだ。」
チャウは頭を下げて出ていった。
嘘ではない、あとでちゃんとあちらに連絡する。私が思いついた案は荷物を二つアメリカ人に運んで貰うことだった。
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