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四十
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朝からにわかヤクザだらけだった屋敷から車が次々と出て行く。最後のダミーが出払ってようやく俺達が出発する段になった。
斉宮が後部座席に最初に乗り込み、俺はその後ろに続いた。
単に車に乗るという当たり前の動作だったのに、いきなり空気が変化した。その直ぐ後、俺の後ろにいた桜沢が覆いかぶさってきたのだ。
驚いた俺は逃れようとして身を捩じった。
パン!
その乾いた音が響きわたり、背中越しに桜沢のくぐもった呻き声が聞こえた。
そのままグイグイ身体を押され後部座席におしこまれる。腹ばいのまま後ろから押され、文句を言おうとして仰け反った時、最初に乗り込んでいた斉宮の顔が見えた。
真っ白に色を失った肌、黒く光る瞳が俺の後ろに視線を投げかけている。
「桜沢!!!」
ほとばしった斉宮の声は悲鳴に近く、こんな狼狽える姿をみて、起こった状況がボンヤリ浮かぶ。
・・・俺をかばった・・のか?
「兄貴!」
シートベルトを外そうとした行徳に桜沢の怒号が響く。
「行徳!早くだせ!」
「でも!」
「いいから!降りるな!バカヤロウ!斉宮!頼んだぞ!」
斉宮に腕を引かれ、完全に車の中に体が滑り込んだ。
車の窓には桜沢の背中がみえる。桜沢の体重によってドアが閉まり、遮断された車の外から叫び声が聞こえた。
「行け!」
窓が2度叩かれた。
桜沢?桜沢?桜沢!大丈夫なのか?弾は当たったのか?それたのか?
穴があくほど見詰めれば巻き戻したテープのように現実がかわるかもしれない。撃たれる前にもどるかもしれない、桜沢!
後ろから抱き込まれ。シートに倒れ込む格好になる。
「追撃に備えます。このままで。行徳、出してくれ!」
ガタガタ震える身体は覆いかぶさっている斉宮の体重をもってしても止められなかった。
どうして・・・どうして。
桜沢、まさか死なないよな?誰か教えてくれ!!
がっちり抑え込まれた斉宮から伝わってくる体温に必死にしがみつく。
すべるように車が走り出し、空港へのドライブが始まる。
ウキウキするはずの道のりは、凍りついた心と不安に押しつぶされる吐きそうな時間に変わった。
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