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六十二
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狼の先発隊によって丸腰にされた男達。後ろ手に縛られており、抵抗しようにも無理だ。
ここで暴れて撃たれるよりは、何とか救われる糸口を掴もうと今必死に頭を回転させていることだろう。だが、それはすべて無駄になる。私に刃向ったことがどういうことか、今際の際で思い知るがいい。
「我々がここに留まったのは金で契約したからであって義理や忠誠心ではない。」
とりあえず喋らせることにした。
「だからあの老人のせいで殺されるのは本意ではない。知っていることは話した。出掛ける予定もなかったし、急に変更になったわけでもない。」
「ガードの人間は何をしていた。目を離したのか?大事な大事な雇い主だ。金づるなら尚のこと、違うか?」
「・・・屋敷内で常に貼りついているわけではない。」
「まあいい。全員で大龍の自室に行けば済むことだ。」
男達のわずかな揺れ、私はそれを見逃さなかった。白牙も同じだろう、何もしらないはずがないのだ。私を騙しとおせると?見くびるのもいい加減にしろと言いたい。
1Fの最奥にある部屋は特別華美でもなく、質素でもない。意外と機能的にまとめられた空間だった。
シンプルに整えられた部屋に違和感を覚える。あの男が好むのはもっと俗っぽいものだ。
さては何処か・・・手を入れたな。
白牙がゆっくりと壁ぞいを歩きはじめた。棚を触り、引出を開けたり閉めたりをしながら、壁面の家具をチェックしていく。私は男達の様子をうかがっていた。
ふっ・・・あの本棚か。
知らないフリをするのは大変なことなのだ。視線、体の向き、わずかな揺れ。それがすべてを物語る。
「あの本棚、しかけがあるようだな。」
「・・・。」
「まあいい、白牙動かしてくれ。」
少し押しただけで本棚は簡単に動いた。しゃがみ込んだ白牙が指先を下にもぐらせる。
「埋め込み式のキャスターです。」
完全に本棚を横にずらすと、堅牢なドアが姿を現した。
ふん、こんなものを作っていたのか。
「パニックルームか。ということはこの状況はモニターで確認できているということだな。当然音声も拾っているということか・・・。
悪ふざけには付き合えないと釘をさしたというのに、貴方は頭が悪い。私の命を狙うとは、痴呆がはいったのでしょうかね。
約1時間後、この隣の部屋から火がでます。タバコの不始末にしましょう、いかにも放火ですというのはいただけない。こういうことはリアルさを追求しなくては。」
私はホルダーから銃をとりだし、綺麗に拭う。いくら足がつかない物だからといっても、さっき緑湖を撃ったから所持しているわけにはいかない。
床に銃を置き、隣にピルケースを置く。
ゆっくりとナイフを取り出し、この中で一番腕力がないと見極めた事務方の側近の拘束を切る。
「動くな。せっかく解かれたのだぞ?不用意に動いて台無しにすることはない。最期まで話を聞いてから動くことを勧める。わかったか?」
「・・・わかった。」
男は手首をさすることは止めなかったが、ガードの男達と並んでおとなしくしている。
「大幅な改築をしたという情報はないので、パニックルームというよりは後付のボックスタイプでしょう。
手抜き工事じゃないことを祈りますよ。屋敷が燃え盛る中、煙も火もそこに入らないといいですが。
煙りにまかれて息ができなくなるか・・・蒸し焼きになるか・・・。
私にとってはどっちでもいい。」
白牙は私の隣に立ち、男達に銃を向けて行動を封じている。
「ここに銃を置いておく。ピルケースには青酸カリのカプセルが入っている。生きたまま焼かれることを良しとしないなら自ら死を選ぶもよし、最後まであがくもよし。
一人は縄を解かれた、あと自由に動ける大龍がいるだろう?充分話合って自分達の命を救うべく足掻けばいい。
お前たちは私の屋敷に届け物をしてくれるトラックを襲撃したな?ドライバーの遺体がみつかったぞ。
そして殺し屋を送り込んだ。
金による契約でも忠誠心でも私にとっては関係ない。
私の命を狙った、その代償は火あぶりだ。火によって身を清めてあの世にいくがいい。」
背後のドアを開け素早く廊下に出ると白牙が続く。
締められたドアは控えていた狼達が何枚かの板を打ち付けて完全に封じた。中から開けることは不可能だ。一つある窓も同様に外から封じてある。ハリウッド映画のように都合よく通気口が外に通じていることもない。
1時間とは建前だ。すでに隣の部屋のデスクの上はタバコによってもたらされた火が書類を勢いよく飲み込み始めている。はためくカーテンに引火するのは目前。
最期まで悶え苦しめばいい。自ら死を選ぶのか、生きながら焼かれるのかをジリジリしながら悩め。
大龍・・・あなたも同様だ。一人箱にこもり防火と防煙を信じながらオーブンの中の肉のようにこんがり焼けてしまえばいい。
「見届けて報告を。ヨシキの元へ行く。」
狼の群れは実に統率がとれている。牙を名にもつ何頭かのリーダーを中心に淀みなく的確に命令を実行に移す。
彼らと苦楽を共にすることを誓おう。後ろに付従う白牙とともに車に急いだ。
乗り込む前に振り返り屋敷をみると、はためくカーテンが炎につつまれ踊るように揺れていた。
火はいい・・・全てを舐めつくし後に残るのは黒一色の残骸。
すべてが無に帰する。
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