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「ちょっと、待てって!」
走って荒太を追いかけると、荒太は既に階段を登り始めていた。距離を詰めて腕を掴む。
「なんで逃げんだよ」
声を掛けられても腕を掴まれても、荒太は頑なにこちらを向こうとしなかった。だが、掴んだ腕はふるふると震えているし、拳も握り締められている。
「無視すんな」
「っヨウだって!俺の気持ち無視してんじゃん!」
…っと、それはつまりどういうことだ。
叫んだと同時にこちらを向いた荒太は、グッと真っ直ぐ俺の目を見てきた。解せない、という俺の表情に、荒太の苛立ちは強くなる。
「今日サークルの飲み会だったんだろ!なのになんであの女といんだよ!」
「………」
「俺にはあんまり芽衣と仲良くするなとか言う癖に!自分は何な訳?!」
「………」
「大体俺が目の前にいるの分かっててベタベタ引っ付いてんじゃねー!」
ヤバイ。こんなときに不謹慎なのは分かってるんだけど、どうしてもニヤつきが抑えられない。
つまり、荒太も嫉妬してくれたってことだろ?
美優が俺に触るのを見て苛ついてたって訳だ。それであの無愛想な接客……クソ、まじ可愛い。
「黙ってねぇでなんとか言えよ!」
「…クソ可愛い」
「………は?」
おっと、まずい。つい本音が漏れてしまった。荒太もポカーンとしてしまっている。
「…可愛いって、適当なこと言ってごまか」
「適当じゃない」
とりあえず、移動しよう。
美優が勝手に割り込んできたのだと今すぐにでも説明して甘やかしたい気分だったが、もうそろそろ先輩たちも出てくるだろう。
そんな話を聞かれれば、俺たちが付き合っているということが即バレしてしまう。
掴んだままだった腕を軽く引いて、歩き出した。
「とりあえず、出よう。先輩達も出てくる」
荒太は何か言いたげに口を開き掛けたが、俺のいうことも最もだと思ったのか、黙ってされるがままになった。
電車を一駅で降りて、着いたのは俺の家。歩いた時間を含めても15分もかかってはいないだろう。けれどもこの僅かな時間さえももどかしい。今こうして歩いている間も、きっと荒太は誤解を深めていってるだろうから。
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