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少し離れたところにある水族館までは、電車で行くことになっている。
免許もあるし、車借りて行くのもいいかと思っていたのだが、荒太がこっちの方がいいと言ったのだ。人混みとか嫌いそうだし、理由はわからないんだけど。
さすがに通勤ラッシュ時のような乗客の多さではなかったが、椅子が空いてないくらいには混んでいる。
幸い荒太が履いているのはヒールのないマーチンブーツなので、負担はかかっていないようで安心した。
「なぁ…さっきから、見られてるんだけど。恥ずかしいからやめろよ」
「んー、やだ」
荒太がつけているウィッグの毛は綺麗にクルクルと巻かれていて、思わず指に絡めたくなる。その衝動を我慢せずに暗い茶髪を弄んでいたのだが、どうやら周りの視線を集めてしまっているらしい。
多分人前でイチャつきやがってこのバカップル、くらいに思われているのだろう。だが荒太が男の視線を独り占めしているのが気に触るので絶対に止めてやらない。
「髪とか服とか、どうしたの?」
「…希子先輩に一緒に用意してもらって、今日の朝もメイクと頭してもらった」
「ふーん」
かなり気合いを入れて来てくれたらしい。嬉しいことこの上ないが、例え相手が希子先輩だったとしても二人きりという状況は少し嫌だ。
ここで水を差すのもなんなので、今は言わないけど。
「ていうかさ…お前こそなんなんだよ、いつもより洒落っ気出しやがって」
洒落っ気と言われても…。いつものシンプルな格好と、今日もほとんど変わらないのだが。
黒のスキニーに白いTシャツと黒のタートルネックを重ねてしたから少し出し、上からグレージュのコーチジャケットを羽織った。靴は黒の革靴だ。
腕時計だっていつも着けてるし…。いつもと違うところといえば、若干髪をセットしたくらいか。
「そんなに普段と違う?」
「別に…ただ周りがお前のことずっと見てんだよ」
確かに男の視線が荒太にいっている代わりに、女の視線はこちらにきているという自覚はある。
「荒太だって男の視線独占しちゃってんじゃん」
「は?バカじゃねぇの、誰が俺なんて見るかよ」
「いや、本気で言ってんの?さっきもナンパされてたくせに」
「あれはアイツらがおかしかっただけだろ。ちょっと気が触れてたやつらなんだよ」
これだから自覚の無いやつは…。朝、希子先輩にセットしてもらった時に自分の姿を鏡で見なかったのだろうか。
荒太の目には、周りの人間がどれだけ綺麗に映っているのだろう。この電車内を見渡しても、ここまでの美女はなかなかいないと思うのだが。
今日一日、気を付けて荒太のことを見ておかないと。誰からもちょっかいをかけられなければいいけど、危機感の無い奴ほど悪戯するのが簡単な相手はいないからな。
もう一度、荒太に目がいっている電車内の男たちを強く睨んだ。
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