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あまり会話が続かない、と思っていた俺の予想は見事に外れ、沈黙することほ殆ど無かった。
俺が荒太のバイト先を尋ねると、店の名前は教えてはくれず、バーということだけ聞いた。
お前はどこでしてんの、と聞き返してきたことが意外だった。
ただ、会話の節々から感じられることが一つある。
荒太は、明らかに人と話すことに慣れていないし得意じゃない。前々から何となく分かってはいたけど。
言葉はすらすら出てくる訳ではないし、自分の思ったことを口に出すことを、一々躊躇しているような気がする。あくまでも気がするだけなんだけど。
でもそんな荒太が今、俺と、話しているという事実が嬉しかった。戸惑いながらも、一生懸命、と言うのは少し大袈裟だけど、俺に向けて言葉を発する。俺の言葉をきちんと聞いている。
なんとなく、威勢のいい手間のかかる動物を手なずけた気分だった。
そうこうしているうちに、俺らはかなりの量のアルコールを消費していた。
荒太は顔は赤くなっているが、呂律は回っているし、目線もしっかりしている。体温が上がり易いのだろうか。
プルルルル
「……俺だ。ちょっと出てきてもいいか?」
「ああ。」
着信は海外出張中の父親から。後でかけ直しても良かったのだが、父さん忙しいからな。
「もしもし。」
「もしもし、ヨウか。元気にしてるか?」
「元気だよ。父さんは?」
「俺も元気だよ。一段落着くから、来月の頭、久々にそっちに帰れそうなんだ。」
「そう。お疲れ様。お土産期待してる。」
「はは。楽しみにしててくれ。」
「うん。じゃあ、今呑みに来てるから。」
「そうか、急に悪かったな。じゃあまた」
帰ってくるのか。久しぶりだな、父さんに会うの。
小さい頃、母さんと離婚してから、いやする前から、父さんは出張の多い人だった。
とは言っても、ドラマにありがちな家族にを蔑ろにする冷徹な仕事人間という訳ではなかった。
帰国の時はいつも土産を沢山買ってくるし、海外であった笑い話や為になる話も色々聞かせてくれた。
休みの日は家事も手伝っていたし、小さい頃はよくキャッチボールなんかもした。
両親が上手くいかなかったのは、母さんの浮気が原因だ。
一人は寂しいの、なんて言っていたが、所詮あの女は気が多かっただけだと思う。
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