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まあ、帰るだろ普通に。何も言って来ないし。
それから一緒に俺の最寄り駅に降りて、近くのスーパーに寄った。
「玉ねぎと、肉と、卵…は家にあったか。あ、あとニンニク……。」
「……ふはっ。荒太に買い物カゴって、似合わねぇ。」
「っるせーな。ヨウには言われたくねぇ。」
人相の悪い俺に買い物カゴは似合うわけが無い。それは分かっている。
しかし、こんな端正な顔立ちのヨウがそれを持っていても、異色の組み合わせだ。
そもそも、スーパーというものが似合わない。ヨウはどこか高貴な感じがするというか、品があるというか。
だから、俺を笑う資格はお前には無い。
「バーカ、俺の方がまだマシだ。貸せよ。」
ぬっと腕が伸びてきて、持っていたカゴを奪っていく。
「人のこと言えねぇじゃねーか。貴族が拾い食いするくらい似会ってないけど?」
言い返して、もう一度カゴを俺の手に戻そうとした。しかし、ヨウはグッと力を込めて取手を握ったままだ。
「ちょっ、話せよ。」
「俺が持つからいいよ。」
「なんでだよ。持ってもらう必要なくない?」
「俺が持ちたいんだよ。荒太が全部やっちゃうと、一緒に買出ししてる感じしないじゃん。彼女と買い物しながらイチャイチャするのって良くない?」
「なっ、彼女って……。俺は男だ!」
「ははっ、まあそうだけど。」
「そういうのはいっつもお前の周りでキャーキャー言ってる女子とやれ!」
カゴを奪い返そうかとも思ったが、ヨウの方を向くのが恥ずかしかったので、もう諦めることにした。
食材を選んでいる時、ヨウの言葉を思い出して、何度も一人で照れてしまう。
それって、俺とイチャイチャするのが、少なからず嫌じゃないってことで合っているだろうか。
それと反面、もやもやする気持ちもある。
彼女と買い物…イチャイチャ……。
良くない?って、前にもしたことがあるってことか?何それ。…なんかおもしろくない。
どうせヨウは俺と違って、恋愛経験も豊富だろうし、色んなことを色んな子としてきたんだろう。
俺は、全部初めてなのに。こうやって、好きな人と一緒に買い物をすることも、こんなに人を強く想うのも。
女の人と付き合ったことが無い訳ではない。過去に三人と付き合った。でもそれは全て表面上というか、なんというか。
告白されて、断って、最初は好きじゃなくても良いと言われて。
そこまで言うんなら、って、思った。俺もそこまで言えるくらい人に夢中になりたい、って、思った。
求められればセックスもした。
けれど結局は上手くいかなくて、最後は相手から振られるのがオチ。
「もう疲れた、辛い。」
三人が三人とも、そう言った。
「前よりも、私のことを好きになってくれてるって思えない。気持ちが変わってる気配、少しも無い。」
泣きながら言われたって、俺は何も言えなかったし慰めてあげられなかった。
付き合っている内に多少は相手のことを好きになったし、俺はそれなりに好きだった。
でも、本当に好きなのかって聞かれたら自信を持ってそうだとは言えないし、多分違う。
だって現に、そんな風に言われても申し訳ないとは思うけれど、強い悲しみは無かったから。
…強いて言うなら、人のことを思えない自分が悲しい気持ちはあったけど。
そんな俺に彼女たちを引き留め、慰め、付き合い続ける資格はないと思った。
でも、今回は違う。
それなりに、なんてもんじゃない。好きだ。好き。
気付けばヨウのことを考えて、本人と会っているときは頬が緩むのを抑えるのに必死で。
ふとした瞬間に、つい好きだと言いそうになってしまうような、そんな感覚。
この感情を、今までヨウは、俺じゃない誰かに持っていたんだと思うと、胸が苦しくなる。
…過去の、知らない誰かに嫉妬したって意味ないことは分かっている。
それでも、これは操縦できるようなものではないから仕方がない。
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