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僕
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僕、井上恭介(イノウエキョウスケ)は都内の大学に通っている。
もともと都内に住んでいたが、幼い時仙台に引っ越し、高校1年になったばかりの頃また都内に戻ってきたのだ。
うちは父子家庭である。
単純な話父は幼い僕が邪魔だったんだと思う。母が病気で亡くなり、1人で僕を育てられないから 父の実家である仙台に僕は送られた。
母親を亡くし父親に見離された惨めな子。
そんな僕を祖父母は何不自由なく育ててくれた。
祖父母には感謝している。厄介事を押し付けられたにも関わらず僕の面倒を見てくれたから。
祖父母はいつだって優しかった。
母親が入院してからは家に1人で居ることが多かっただけに誰かがずっと側に居てくれるのは有難かった。
でも祖父母が父からお金を受け取っていたのを知ったのは中2の時。僕を育てるための養育費、というにはあまりに額が大きく、僕は気付いてしまった。
僕を預かる代わりに祖父母は大金を得ていたことを。
別にどうってことはない。
ただ僕に向けてくれていた優しさが金の為に偽っていたものだったことが悲しかった。
金がある前提の厚意だったこと。
僕がそれを心からの愛だと信じていたことも。
母親を亡くし、悲しむ間もなく新しい環境に飛び込み、気を遣ってくれる祖父母の為に元気な子供を演じていた。幼いながらに努力までして偽りの愛に身を委ねて満足していたのか僕は。
思春期まっさかりの中学生の僕は、ぐれる隙も無く絶望と同時にいろいろなことを諦めた。
無償の愛なんて存在しない。
高校へ上がる時僕は祖父母の家を出た。
前住んでいた所の近くのマンションを父が所有していて、そこでの一人暮らしを許されたのだ。
父は金はやるから勝手にしろ、というような人らしく、定期的にお金が振り込まれる。形だけの父親、そんな感じ。
引っ越しでバタバタして入学式には間に合わず、少し遅れて転入という形で高校に入った。
「井上です、よろしく」
教卓の前で簡単な自己紹介をし、担任に指示された席に腰を下ろした。ふう、と小さく息を吐き窓の外を眺める。
ふと目に止まったのは反対側の校舎の屋上に見えた人影。 さぼってるのか、そんな最もな感想を覚えた。ただそれだけ。
これが、僕が初めて晴を見た時。
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