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出会い
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「井上くん、この問題教えてくれない?」
新しい環境に打ち解けるのは容易だった。相手の喜ぶように微笑んでいればいい。徹底的に「善い人」を演じたし別に苦でもなかった。
「ありがとう!ほんとに、井上くんって優しくって頭も良くて…」
女子のどこかフワフワした空気に囲まれるのも嫌ではなかった。優しく微笑めば熱い視線を向けて貰えることを知った。
「好きなの… 井上くんのこと。」
こうして僕は 優しく穏やかでみんなに好かれる「井上くん」を確立した。
1年生の冬 何度目かの席替えで僕はまた窓際の1番裏の席になった。
窓の外を見つめた時、ふと転入してきた時のことを思い出し少し懐かしく思う。こっちに戻って来て季節はもう冬になった。忙しくしていると時間は早く過ぎていく。
「なー、お前学校たのしい?」
そんな僕の思考を遮ったのはぶっきらぼうな喋り方とどこか眠たそうな低い声だった。
前の席の確か ___
「俺?ハルって呼んでー」
そう言った夏目晴(ナツメハル)は自分の椅子に反対に腰掛け、僕の机に頬杖を付いた。僕の顔をなぜかじっと見つめた後、よろしくー、とまた眠たそうな声で言ってへらりと笑った。
席が前後になったのをきっかけに晴は事あるごとに僕に構うようになって、自然とそれが当たり前になった。
女子にばかり囲まれていた僕は、晴と一緒に居ることで友達も増えた。男友達数人と、晴と僕。
普段はみんなでつるんでいて放課後や休みの日はいつからか晴と2人で過ごした。
晴はモテた。何度か告白されているのを見た事があるし実際その中の女の子と付き合ってもいた。整った顔に高い身長、線の細い僕とは違って男らしい体つき。確かにモテるのも納得だ。
でもいつの間にか別れていて、
「ふられちゃった」
とまたへらりと笑うのだ。
晴はどちらかというと勉強より運動派。
何かに熱くなったりしないし基本的に面倒臭そうでいつも眠たそう。
直感で動くから気分が乗らない時はよく屋上でさぼっているか授業を受けても机に伏せ、眠っている事が多かった。
「お前ほんと適当だな!晴」
と、よくクラスメイトに言われていたっけ。
でも晴には人を惹きつける魅力があって、ほうっておけば周りから人が集まるタイプだった。
自分からは群れない、そんな感じ。
人にも媚びないし誰かに執着したりもしない。
僕とは違う、そんな晴。
気付いたら僕は晴に少しずつ、気を許すようになった。
でもふと思うことがあった。
友達はたくさんいても誰かと群れたりしない晴が、どうして僕とずっと一緒に居るのだろう?
空っぽの僕なんかと、居てくれるのだろう。
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