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例の話
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「ねえ、晴」
それから数日後の移動教室の帰り。
少し肌寒い日だった。みんなに言われたのもあるが、自分も気になって例の話題を切り出すべく、少し前を歩く晴の背中に声を掛けた。
「んー」
返って来た気の無い返事に少し拍子抜けしてしまう。何て切り出すか迷ったがストレートに聞くことにした。
「あの子と、どうなの?」
「あの子って?」
立ち止まった晴が振り返り僕を真っ直ぐ見据えた。それだけなのにドキリと心臓が跳ねた。
「誰ってほら…かの、じょ…?」
晴の真っ直ぐな視線に射すくめられなんだか落ち着かない。僕の言葉は情けなく尻すぼみ、目を合わせていられなくてヘラッと笑って見せた。
「なんで」
すぐさま返ってきた返事に慌ててしまった。なんだか会話のテンポについて行けない。別にいけないことを聞いている訳じゃないのに。目の前で話してる相手に、焦る。
「なんでって… ほら、可愛い子だなって、そう!みんなで盛り上がってさ!」
晴は何も言わない。
「だからさ!どうやってあんな可愛い子捕まえたんだよーって思って!」
いつもだったらもっと上手い嘘が付けただろう。もっと最もらしいことを、最もらしい口調で喋れただろうに。晴の前では僕は僕で居られない。
「ふーん」
そう言うと晴は歩き出して僕も歩き出す。一定の距離を保ったまま僕は晴に続いた。
「あいつらに言われたんだろ、聞いて来いって」
「あ、え… なんでわかるの」
また晴は立ち止まった。
「別にたいしてお前らの好きそうな話はねえよ」
それってどういう意味だろう。単に詳しく話したくないだけなのだろうか。
「…どこまで、いったの?」
ぽつりと呟いた。こんなこと聞かれたら晴は変に思うだろうか。でも考えるより先に口に出してしまっていたのだから、仕方ない。
「そんなに興味ある?」
僕らの間にほんの少しあった距離はいつの間にか無くなっていてふと気付けば晴の顔が目の前にあった。慌てて後退りしようとしたのを制止され、腕を掴まれる。
「えっ…なに、ちょっ、」
空いた手でくいと顎を掬われ、晴のその瞳と対峙した。微かにユラユラと揺れる瞳に目を大きく見開いた間抜けヅラの僕が映っている。互いの息遣いまで聞こえそうな、そんな距離。
「……ぷっ、なんだその顔!」
軽く吹き出したように晴はククッと笑った。はっとして一気に顔に熱が集まる。からかわれた…?
「…なっ、なんでっ、」
反論の言葉も思いつかず僕はパクパクと口を動かすばかりだった。
「お前ってさほんとに何も知らねーんだな」
「は…?」
「はって、お前が知りたいって言ったんじゃん。俺と、あの子。どこまでいってんのか」
「…っ、」
胸が、ざわつく。そうか、あまりにも唐突でつい流されてしまっていたが 俺はあんな風にキスをするんだぞって、そういう事が言いたいのか。
「真っ赤になっちゃってーお前童貞だろ!」
茶化すような晴の言葉に、死にたくなった。
ああ、なんだこれみっともない。恥ずかしい。
自分の顎を掬ったままの晴の手を急いで振り払った。赤くなってしまった顔を少しでも隠したくて下を向いたまま晴を軽く突き飛ばした。
「おわっ、なんだよきょーすけ?」
驚いた様子の晴から逃げるように僕はスタスタ歩いた。ほんの少し冷たい指先を熱くなった頬に当て、未だにドキンドキンと煩い心臓をなんとか落ち着かせた。
だめだだめだだめだ。こんなのもう辞めよう。
こんなの僕らしくない。
頭の中で晴の言葉がループする。
__________ ほんとに何も知らねーんだな
そうだ僕は本当に何も知らない。
空っぽを悟られたようで酷く恥ずかしかった。見透かされた空っぽと一緒に僕の晴に対する気持ちまで見抜かれてしまったらどうしよう。そんなふうにも思った。
もうたくさんだ。あんな慌てて落ち着かないのも、胸がドキドキして痛いくらいなのも。
___________
「突然呼び出したりしてごめんね、井上くん」
「全然。ところで話って?」
「私、…前から井上くんの事好きだったの…付き合って貰えないかな…?」
知らないのなら、知ればいい。
「 _______ いいよ、よろしくね田中さん」
単純な話だ。
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