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卒業式
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「ほら!晴!井上も並んで並んで!」
式が終わりクラスでのホームルーム後、卒業おめでとうの文字がデカデカと書かれた黒板の前に手を引かれ、並ばされた。隣にはいつもより少し髪をワックスで上げている晴。
僕らの手には卒業証書が握られていて、友達の1人に晴と2人でツーショットを撮るよう半ば強引に促されたのだ。
いつの間にか僕のスマホを持ち、シャッターを切っている。
「お前まだポーズも顔もきめてねえのに撮るなよー」
晴は表情を崩して笑う。僕は少し緊張してぎこちなく笑った。
「いいのいいの!男前2人はキメてなくても嫌味なくらいイケメンですよーだ!」
はいチーズ!と言われて僕らはピースサインでカメラを見た。晴が僕に少し体を寄せたから、肩が触れ合う。やっぱり緊張しながら僕も微笑んだ。
今日で、最後。
この学校に来るのも、晴と毎日出会うのも。
ちらりと晴の横顔を盗み見た。
相変わらずため息の出る程整った顔だ。僕が女なら告白してたのに……なんて思うのも今日で最後、にしたい。
友人との別れに涙を流す者もこれからの未来に希望を抱く者もどことなく浮き足立った空気の中、僕はどこか切ない気持ちになる。
友達から僕のスマホを受け取るとカメラロールには、先ほど撮ったばかりの写真があった。
ちらっと見て、すぐにポケットに押し込んだ。
何とも言いようのない気持ちが溢れそうになったからだ。
そして、こっちも最後。
「恭介っ!こっちこっち!」
付き合っていた彼女と待ち合わせをしたのは一旦解散後の夕方6時くらい。いつものカフェで落ち合った。
「で、話って?」
僕が今から言う言葉はたぶん彼女のにこやかな表情を崩してしまうだろう。
「前、遠距離やってけるかなって話してたってのもあるんだけどさ」
僕は出来るだけ優しい口調で告げる。
ちなみに彼女は関西の美容系の専門学校に進むらしかった。
「僕たち、別れよう」
彼女は突然告げられた言葉を理解するとたちまち表情を曇らせ泣いてしまった。
でもお互いの為に、とかよくあるベタなことを話すと納得してくれたのか、涙を拭いながら顔を上げた。
「ほんとは、薄々気づいてたの」
「え?」
「恭介ってほんとは私の事好きじゃなかったよね」
彼女の唐突な言葉に僕は一瞬思考が停止した。
周りの喧騒もカフェのBGMも耳に入らなくなり、まさか僕の晴への気持ちがばれているのか、と血の気の引くのを感じた。
「ふふっ、そんな顔もするんだね恭介。…違うよ、なんか嫌味とかじゃなくてさ」
目を細めて笑う彼女の鼻がうっすらと赤く染まっている。
「なんとなく、忘れられない人が居るんだろうなあ、っていうのは感じてたの」
静かな口調の彼女に僕は今までなんて申し訳ない事をしていたんだろう、と思った。
「それでもいつか、私だけを見てくれたらなって思ってたんだけどここに来て、ふられちゃった」
またふふっと笑って見せた彼女の頬を涙が伝って、僕も泣きそうになった。
「ほんと…ごめん、ごめん、」
僕の手を彼女が握った。それで初めて、僕は自分の手が震えていることに気付いた。
「私こそ、ごめんね。今までありがとう」
「…っ」
僕が思っていたより彼女は、素敵な女性だった。僕は気付かなかった、晴のことしか見ていなかったから。彼女を傷付けた。
「…それでも、ちゃんと、すきだったから」
僕が震える声で彼女に言えたのはそれだけだった。
それから「元」彼女と少し話した。
友達や担任の話やしょうもない話、これから始まる新生活の話まで。
ここに来てやっと素で話せた気がした。
「じゃあまた、元気で」
「クラスの集まりとかもあるし、また会おうね」
「勿論、今日は話せてよかったよ」
「私も。すっきりした。ねえ、恭介」
「ん?」
「恭介も、好きな人と上手くいくといいね」
そうして彼女と別れてカフェを出たのは午後8時になるところだった。
まだ冷え込むなあ。そんなことを思いながら家路を辿る。暗くなった空を見上げながら今までを思い出していた。
引っ越してきたこと。初めて晴と話したこと。
学校の様々な行事。それから彼女と付き合う事にしたこと。
ふと思い出してポケットの中のスマホを取り出した。ロックを解除するとあの時開いたままにしていた写真がすぐに映し出された。
笑顔を向ける、僕。その横には ________
そして、僕ははっとした。
僕の部屋の前で暇そうにスマホを操作している、見慣れた人影。
「え…」
そしてその見慣れた顔がこちらを向いた。
「おー、きょーすけ。おせえよ」
僕は慌ててスマホをポケットに押し込んだ。
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