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アイス
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「晴…!なんで居るの、」
できるだけ不自然にならない様、平静を装ったが少し上ずった声に僕は咳払いしながら言った。
「なんでって、お前のこと待ってたんじゃん」
早く入れて、と突っ立ったままの僕に玄関を開けるよう催促した。はっとして僕は慌てて鍵を差し込んだ。
「卒業祝い、しよーぜ」
ちらりと振り返れば嬉しそうな顔をした晴がコンビニの袋を掲げてみせ、にっこりと笑った。
その笑顔になんとなく気が抜けて、僕もふっと笑った。パチンと電気を点け、どうぞと晴を部屋に招いた。
「なんかお前ん家来るの久しぶり」
頻繁にうちに来ていた時みたいに晴はどっかりとソファーに腰を下ろし、子供のように部屋中を見回しながら言った。
「ん、、確かにそうかも、」
晴が買ってきてくれたジュースをグラスに注ぎ、一瞬迷って僕もソファーに腰を下ろした。
この部屋に晴が居る、同じソファーで、僕の隣に座っている。なんとなくソワソワして、僕はごくごくとジュースを飲んだ。
「ふは、そんな喉渇いてたのかよ」
晴が僕の様子を眺めながら笑みを零した。やたら見られている気がする。気のせいか?そうだ、気のせいだ。
「ちが…、いや、うん渇いてた…」
口籠りながらまた僕は誤魔化すように晴の持ってきてくれたコンビニの袋を漁った。
中身は、ポテトチップスとスルメ。
お祝い、と言うには質素でお菓子パーティーと言うには少ない絶妙なチョイスにくすりと笑いながら
「これで卒業祝い?」
と晴に尋ねると、うるせーなーと晴も笑った。
なんとなく肩の力が抜けた気がして嬉しくなり、思わず頬が緩んだ。
晴がポテトチップスの封を開けて僕に差し出してくれた。一枚取り、口に運ぶ。お菓子なんて1人で食べたりしないから、なんだか久しぶりだ。
隣に座る晴とちらっと目が合うと晴は気恥ずかしそうにリモコンに手を伸ばし、テレビを付けた。
お笑い番組を見ながら何をするでもなくポテトチップスを摘んだ。時々笑ったり、テレビに向かってツッコんだりしながら時間は流れた。
その番組が終わるとどのチャンネルもニュースだらけ。つまんねえな、と晴がテレピを消したはいいものの、僕らの間に流れる沈黙に耐え切れなくなり
「…ぁ、アイス食べたくない?」
と唐突に提案した。僕コンビニで買ってくるから待ってて!と付け足すと、晴が夜の11時を過ぎた時計をちらりと見て
「お前行くなら俺も行く、」
そう言って僕らは家を出た。
いつぶり、だろうか。
晴と2人で歩くなんて久々過ぎて、月明かりに照らされる晴の横顔をちらっと盗み見た。
晴は今、なに考えてんだろ…
「なんか久々だな、ほんと」
晴が感慨深そうに呟く声に慌てて晴の横顔から視線を外した。どうしても久しぶりすぎて嬉しいなんて、舞い上がってしまう。
「なっ、なにが?」
「きょーすけと一緒に歩くのとか、こうゆうの久しぶりだなって」
ああ、同じこと考えてた。それだけでも嬉しいのに晴が僕を見て少年っぽさの残る顔で笑うから、また心臓がきゅんとなって甘い気持ちが胸に広がる。
「僕も同じこと思ってた」
ふふっと笑えば晴も笑った。心地よい時間は流れ、家を出てから10分程でコンビニに着いた。
思い付きでアイスを提案しただけであってそんなに食べたかった訳でもないのに、いざコンビニに来るとどれも美味しそうで1つに選び切れない。
「うーん、こっち!いやこっち…あでも…」
2択まで絞ったところで晴が痺れを切らしたのか
「…ったく、きょーすけ優柔不断すぎ」
と、呆れたように笑って僕が両手に1つずつ持ったアイスを両方ともひょいと取り上げた。
「えっ、」
そのままさっさとレジへ向かい、会計を済ませた晴が振り返って言う。
「お前が食いたいやつ、半分ずつしたらいいんじゃん」
手渡された袋にはさっきのアイスが2つ入っていて、僕は袋の中を覗き込むふりをしながら必死で綻ぶ顔を隠した。
コンビニを出て少し前を歩く晴の背中に小声でこっそりありがとうを言ってから、少し早足で追いついてまた隣に並んで歩いた。
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