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夜景
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約束の午後8時。マンションのエントランスを出て5分と経たない内に、黒のレクサスが停車した。
僕が駆け寄るとすぐに運転席の窓が開き、男が愛想の良い顔を覗かせる。
「恭介くん!わざわざ外で待ってなくてよかったのに。寒かっただろう?」
近寄るとふわりと香る高級そうな香水の香り。車内は聞き心地の良い洋楽が流れていた。
「いや、岬さんいつも約束通りだし、僕寒いの平気だから」
そう言ってにこりと微笑むと男も、ならよかった、と微笑んで助手席のドアを開けてくれた。
助手席に腰を下ろすと直ぐに軽く顎を掬われて口付けられる。触れるだけの、優しい大人のキスだった。
「ホテルのフレンチ予約したんだけど、そこでよかったかな?」
「はい、勿論」
彼、登坂 岬(とさか みさき)は容姿端麗なTHE大人の男で、父親は某大企業の取締役らしく彼も28歳の若さでなかなかのポストに就いているらしい。
その余裕は普段彼が身につけているものからも見て取れる。綺麗に磨かれた革靴、質の良さそうなスーツ、高級そうな時計。
でもそのどれにも嫌らしさは感じられず、さり気ないものばかり。そういうのに疎い自分でもそのセンスは分かる気がする。
いつも仕事が終わった後や休みの日に連絡をくれて、こうしてご馳走してくれる。どこでも構わないしむしろ奢ってくれなくていいと言っても、必ず一流レストランや、ホテルに連れて行ってくれるのだ。
今日のホテルは以前来たことのある場所で、窓から臨む夜景が綺麗だ。
こうやって綺麗な夜景を見ているとまるで自分が別人にでもなったような気分になる。
叶わない恋を引きずって、それでも体を重ねて、夜1人で泣いているような、虚しい自分の毎日。そんな日常から離れられる気がする。僕はいつだって空虚だ。
「今日なんか元気ない?」
メインの料理をあらかた食べ終えたところで岬さんが僕の顔を覗き込んだ。
「いや、そんなことないです。なんかぼーっとしちゃって」
僕は元気が無いように見えたらしい。むしろ元気がある僕ってどんなだろうか。
「部屋とってあるよ。食欲ないならもう行こうか」
岬さんはホテルのカードキーを胸ポケットからちらりと覗かせながらその整った顔をニコリと歪ませた。
晴とは違う、静かに燃える瞳だった。
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