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グラスの氷
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酷く綺麗な男の子を見つけたと思った。
一瞬女性かと思う程の線の細さとしなやかさのある子だった。気付いた時には物憂げな瞳にたちまち魅了されていて、すぐに声を掛けていた。
取引先のお得意先に連れられて来たバーだった。その得意先にはそっちの素敵な趣味があったらしく接待ついでに連れ回されたのだ。
度数の強い酒を速いペースで煽ったその取引先が潰れたところで席を立ち、その青年の隣に腰を下ろした。
「君もそっちなの?」
私が尋ねた意味はそのままの意味。ここに来ているということはつまり、ゲイか?と。
「僕はここでバイトしてて。…お兄さんは違うんですね?」
その青年は、大学生だろうか?近くに腰を下ろしたのを後悔させるほどの色気。一気に引き込まれた。青年が置いたグラスの中で氷がカランと音を立てる。
「…こんな綺麗な子が居るなんて思わなかったよ」
「嘘。奥さんいるのに?」
私の薬指の指輪に触れながら何が可笑しいのか青年はクスクスと笑う。その声は鈴の音か、小鳥の囀りかそんな類いのものに思えた。
「君の事凄く気になるんだ」
青年には想い人が居るらしかった。
でも絶対に叶わないらしい。どうして?と聞くと既に一線を超えているからだと言った。ほんの少しでも脈があるなら、まず体の関係なんて簡単に持たないでしょ、と。彼は悲しげな瞳で笑った。
「お兄さん、歳、聞いてもいい?」
「あぁ、27だよ」
まさか自分が男もいける口だなんて思っていなかったが彼を抱くのに何の躊躇もなかった。妻と一緒になって5年。父親同士の紹介で一緒になり、義務のように子作りをした。
何もかも円滑に進んだし、娘も可愛い。何か特別不満があるわけでもない自分の人生に急に現れた青年。
「名前、教えてくれないか」
「… 恭介です」
これがその青年_______井上恭介くんと出会った日の事。ちょうど1年前の雨の降る夜だった。
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