アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
理由
-
「今から会えない?」
突然の着信の相手は開口1番にそう言った。
「えっと…、すみません、今からバイトで。それにしても電話なんて珍しいですね、岬さん」
普段急に誘われることなんてまずないから驚いてしまった。彼との予定はだいたいその数日前には連絡を入れてくれているし、こんなふうに電話もめったにない。
「週末だめになっちゃったんだ。だから今日なら、と思って電話した。でも駄目元だったから平気だよ」
「そうでしたか、お仕事大変ですね」
岬の言葉に耳を傾けながらバイトへ行く支度を手際よく済ませていく。ドアの鍵をガチャリと掛けける前に、窓からちらりと見た外は小雨が降っているようだった。
「なんだ、少しは残念がってよ。僕と会えなくなること」
岬はわざとらしくそう言いながら笑った。
「いやいや!残念ですよ。僕も会いたかったですから」
「ヤりたかった、の間違い?」
またクスクスと笑う声が携帯越しに聞こえて苦笑する。僕らの関係でその手の話はなんだか洒落にならない。それを知っていて言っているのだからタチが悪い。
「じゃあ君がバイト先に着くまで電話してようよ」
「…岬さん、高校生みたいなこと言うんですね」
「大人をからかうんじゃないよ」
ふはっと笑って僕は傘を持ち歩き出す。電話しながら歩くなんて僕こそ高校生みたいだ。
廊下の突き当たりまで行ってエレベーターのボタンを押した。一階で誰かが使用しているようで、なかなか上がってこない。
他愛も無い会話をぽつりぽつりと繰り返したところで、チンと音が鳴りエレベーターのドアが開いた。
「…あ」「え」
ほぼ同時に呟いた声が廊下で響く。
「…晴」
そこに立っていたのは紛れもなく晴で、思わず挙動不審になってしまった。左耳に当てていた携帯を衝動的に耳から離し、晴の顔を見詰めた。
「どっか行くの?…あ、彼女サン?」
晴は表情を変えずに僕を見下ろす。なんだかいつもより声が冷たい気がするのは気のせいだろうか。思いがけず出会ってしまったせいか必要以上に心臓が騒ぐ。
「…いや、バイト行く」
変な間を作ってはいけないと、晴から目を逸らしてそう答えた。さっと晴を避けるようにしてエレベーターに乗り込めば晴もそのままエレベーターの中に残る。正直この至近距離で2人きりはきついものがあった。
「降りないの」
「だってきょうすけ居ねえんなら、ここ来る意味ねえじゃん」
「…ふーん」
左手の携帯電話を強く握り締めた。沈黙がつらい。もし電話の向こうの岬が何か言ったらどうしよう。岬の声が漏れて晴に聞こえてしまったら?そんな意味の無い不安が僕の心を占めた。
そもそも、悪い事してるんじゃ無いのに。
「…電話してたんだろ?しろよ」
晴が僕をチラリと見てそう言った。やはり機嫌が悪いらしい。いつもなら必要以上に僕の顔を覗き込むのに目を合わせようともしない。
「いや、うん、する…けど」
グズグズしているうちにエレベーターが一階まで着いて扉が開いた。じゃあな、と一言だけ残して去って行く晴の背中を見つめる。
ほっとしたものの、何か心苦しい気持ちになった。ヤりたいのに、ヤるために来たのに出来なくて怒ったのだろうか。…嫌われた?
ふとこの前のバイトでマスターに言われた言葉を思い出した。
_________ 同じ相手を何度も抱いたりしないよ
本当に?
「岬さん」
「お。もう平気なの?」
「岬さんは僕のこと、なんで抱くんですか?」
僅かに強くなった雨脚の中、ビニール傘を刺し歩き出す。猫がベンチの下で雨宿りをしているのを横目に、少しの沈黙の後岬が微かに笑っているのが聞こえた。
______________________________________
誤字 脱字の訂正しました。
読み苦しい文章で申し訳ありません( ; ; )
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
23 / 87