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教授
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最近バーに、新しい常連客が増えた。
元々マスターの知り合いらしく昔は毎日のようにバーに足を運んでいたというが最近はご無沙汰だったとか。
年は40代前半というところか。年齢を感じさせないくらいかっこいいと褒めるとまだまだ現役だよ、と笑っていた。
「近くの大学で教員をやっててね。これでも教授なんだよ。」
「そうなんですね、何を教えてらっしゃるんですか?」
「んー、大きく言うと心理学かな。」
彼はバーに来ては僕の前を陣取り、こうして会話をする。他の客との出会いを求めているわけでもないようだった。声を掛けてくる人は居るようだけど。無理もない、彼は目を引く。と思う。
よく喋る人だった。見た目はクールそうでどちらかというと硬派なのに、実際は砕けていていろんな話をしてくれる。僕はほとんど相槌を打つだけ。こんな反応も薄くて彼から見れば若僧にすぎない僕と話していて楽しいのだろうか?
「今日は君の話、聞きたいなあ」
翌日、また来店した彼はそう言った。
へ?と彼に視線を向けると彼は両手で頬杖をついてニコニコと笑っている。それはもう楽しげに。
この人ギャップありすぎるよなあ、と思わず笑ってしまったが、またグラスを拭くのを再開する。
「僕、先生みたいに面白い話できませんよ?」
ふふ、と笑うと彼は尚もニコニコした笑顔を向けながら言った。
「じゃあ悩み相談でも。何か困ってることない?特に…恋愛とか。」
彼の声がほんの少し低く抑えられて、またグラスから彼へと視線を移した。
「…なんか悩みあるって感じの顔だね?これでも心理学の先生だよ、話してみなさいよ」
「なんですかその女子みたいなテンション…。」
まるで恋バナをする女子高生のような彼に思わず苦笑した。最近の大人はお茶目な人が多いのかもしれない。岬さん然りマスター然り。
最初はそんなふざけただけの会話だったのに、どんどん彼のペースに巻き込まれていって、さすが心理学の先生だ、なんて思った。確かカウンセラー?もしているとか言っていた気がする。
「好きな人は?」
「…います、けど…」
「それは女?男?」
「…嫌ですよなんか…心理学の先生にこんなの言うの。見透かされそうで」
「いいじゃないの、ただのオッサンだと思ってさ、言ってご覧なさいよ」
彼の意図が掴めないけど、どうせこのバーで出会うだけの相手だ。自分が男を好きな事も、こんな女々しいのも絶対に他人には、とくによく知らない人には尚更言わないで来たが、もうどうでもいいかって。
気付いたら話し始めていたのは、魔が差したから。だと思いたい。
「もともと僕…、ゲイって訳じゃないんです。女の子とも付き合ってたし。だけど…」
磨いていたグラスはとっくにピカピカで、でも僕は磨き続ける。どこかふわふわした心地だった。
「晴は親友で…もうずっと前に諦めてて…なのに最近なんか駄目で…すごく、すごく」
「すごく?」
覚束ない僕の言葉を彼は黙って聞いていた。その瞳は真っ直ぐ僕を見詰めていて、でも何を考えているのか知る術はなかった。
「願ってしまうんです」
僕の言葉の合間合間にどれくらいの間があったのか、とか彼がその間どうしてた、だとかよく分からないくらいぼうっとしてしまった。ただ気付いたら頬の上を涙が伝っていて、自分が泣き出していることに1番驚いたのは僕自身だ。
「ごめんね、つらい事を聞いちゃったかな」
「…いえ!すいません、みっともなくて」
慌てて涙を拭い、困ったような笑みを浮かべる彼にぺこりと頭を下げた。
彼はもう一杯飲み物いいかな?と言うと、数少ない酒以外のメニューからホットココアを頼んだ。
ココアなんて飲むんだ…と内心珍しく思っていると彼は鞄を持って席を立った。
「それは君に」
ニコリと笑うと彼はウインクする。
そしてでも…っと食い下がった僕に小さな紙を渡した。
「名刺…」
「そう、僕のね。大学に隣接してるクリニックでカウンセラーもしてるんだ。一度おいでよ、ゆっくり話聞くからさ」
「ありがとう、ございます…?」
田崎 誠一。これが彼の名前らしかった。
大学の教授であることと、医師、カウンセラーである肩書きの書かれた名刺。僕は気付いてしまった。
「ここって…」
________________ 晴が通ってる大学だ
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