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吐露
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出席するだけで単位の取れる講義をもう1時間聞いて、大学を後にしたのは午後4時過ぎ。
午後から雨が降り出した。午前中あれだけ晴れていた分嫌になる程の蒸し暑さだ。いろんなやる気が削がれる。帰ってシャワー浴びて寝たい。
濡れるけど、いいか。なんて思いながら大学の敷地を出た時、見たくもなかった顔が居て余計嫌になった。のは内緒。
「晴!どうせ傘持ってないだろうと思って!来ちゃった!」
彼女と付き合い始めたのはいつだっただろう。確か大学に入学して始めた飲み屋のバイト先で出会ったのが初めだった。分かりやすいくらい俺に惚れていて、分かりやすいくらい単純だった。
だから、すぐに付き合った。
髪が長くて、背が低くて、胸の大きい。顔は人並みに可愛いし特に不満も無い。ただほんのりとした束縛が偶に鬱陶しく感じるくらい。
「家、行っていいよね…?最近、シてないし」
分かりやすい上目遣いや喋り方は、何か雑誌から学んだ恋愛テクなのだろう。相手の為に努力して自分を良く見せようとする姿勢は嫌いじゃない。だけど今となっては、この蒸し暑さと同じくらいに鬱陶しい。
彼女が持って来てくれた傘を差し、大学から俺のアパートまで歩いた。大学からうちまではそう遠くない。その間、俺の知りもしない友達の愚痴を聞かされるが半分以上聞き流しているので特に問題もない。
俺の部屋に着き互いにシャワーを済ませると、“そういう“流れになった。正直、なんか面倒くさい。男として期待に応えない訳にもいかないからとりあえずヤるけど。それに田崎にあんな話をしたせいか幼い頃の事ばかり考えてしまうのだ。
余計な事を考えない内に、今はセックスだけに集中しよう。肌と肌とが触れ合いじとっとした感触だけが妙にリアルだった。彼女を膝の上に乗せ吸い付くように首筋に口付けて行く。彼女越しに見た窓から雨雲の切れ間から太陽の光が覗くのが見えた。暗いのに明るい、そんな変な夕焼け。
ふと脳裏に恭介の姿がちらついた。
本当の事を言えばそれは、今日に始まった事ではない。最近ずっとそうだ。彼女と体を重ねる時、恭介を思い出す。恭介だったら、と考えてしまう。
彼女の香水の匂いか髪の匂いか知れない甘い匂いを嗅いだ時。その細い腰を引き寄せた時。彼女の腕が俺の背中に回される時。思い切り腰を打ち付ける時でさえ。
恭介の影が付いて回るような気がして、意識が削がれる。
彼女の甘ったるい喘ぎ声とは違う恭介の切ない声。口付けた時のココアの味。俺の名前を呼ぶ、か細い声。何もかもが鮮明に思い出されるのに現実で抱いているのは恭介じゃない。
その事実が、どうしても目の前にいる裸の彼女をどこか冷めた目で見てしまうのだ。
気乗りしないセックスなんて趣味じゃないが途中で辞めるのも男として格好が付かない。だからヤるけど。そうやって彼女との行為が不毛に思い始めたことにそろそろ見て見ぬふりもできなくなってきた。とりあえずヤるけど。
「…らしくねえよなあ」
「…ん、え、晴…?なにが…?んっ、」
セックスは好きだ。気持ち良いし、その直接的な行動は言葉にするよりも断然手っ取り早い。
煩い口はキスで塞いで、善いところを探ってやればいい。それだけでいいのだ。後は自分も相手も気持ち良くなるだけ。単純な話だ。
そう思っていたのに、最近はそうもいかない。
特に言葉を交わすことも無く行為を済ませ、俺も彼女の外で果てた。しばらく腕枕をして頭を撫でてやっているうちに彼女が眠りに落ちたのを確認し、脱ぎ捨てた衣服を拾った。
携帯で確認した時刻は午後8時。
まだ眠るのには早過ぎるし何かするのも億劫だ。
「名前、なんだっけ」
また昔の事を考えていた。長い夜の始まり。
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