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エゴ
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「はい、着いたよ。バイトお疲れ様」
マンションのエントランス前に停車し、ハンドルから手を離した岬がこちらに微笑んだ。
道中ずっと僕は何も喋らなかった。仏頂面の僕をただ乗せているだけなのに岬は楽しそうで不思議で仕方ない。鼻歌なんて歌っていた程だ。
シートベルトを外し、僕はゆっくりと岬の方を見た。そのまま運転席に身を乗り出し、そっとその手に触れる。
「ほんとに帰っちゃうんですか?」
「どうしたの、急に。…ちょっと呑んだでしょ」
「ん、バイト終わりにマスターにいいよって言われた。でもちょっとだけだよ」
強いアルコールの酒を少し呑んだ。グワングワンと頭が揺れるような感覚。頭の中のどこかで田崎の言葉がループしている気がした。もう苛々はしてない、ただ虚しさを突き付けられてどうしようもないのだ。
「なにかあった?」
運転席に乗り出して膝の上に乗り上げようとする僕の背を撫でながら、子供をあやすように扱われた事にむっとした。こちら側に突き出した岬の座席のレバーを握りシートを後ろへ押すと岬はほんの一瞬驚いた顔をする。
出来たスペースに器用に滑り込んだ。岬の足の間に座り、するするとその太ももを撫でる。今日はライトグレーのスラックスだった。
「岬さんの、舐めさせて」
つう、と指を滑らせた。岬の喉がゴクリと鳴るのが聞こえて見上げると岬は苦笑した。
「本当にそういうとこずるいよね。そんなえっちなお誘いする子だったっけ?」
岬の大きな手が僕の頬を撫で顔にかかった髪をさらりと耳にかけた。あやす様にポンポンと頭を撫でるものだからまた、苛立つ。
「僕そんな子供じゃないんですよ」
「え?」
「綺麗でもないし、純粋でもないのに。それなりに現実ちゃんと見てるし」
岬は一瞬なんの話かと首を傾げたが、そのまま僕の話に黙って耳を傾けた。そうなんだ?と低い声が僕を落ち着かせる。
「初恋が叶うとかそんなの思ってないし。セックスに夢だって見てないし。セックスなんて気持ちよかったらそれでオッケーって分かってるし」
何が可笑しいのか岬はくすくすと笑う。そのまま、それで?と話の先を促した。
「…体だけの関係とか平気だし、僕汚い事もいっぱいしてるし。…ねえ、岬さんだってそうでしょ?僕の事、利用してるだけでしょ?」
ふと泣きそうになった。やはりずっと岬との関係を後ろめたく思っている証拠だった。岬の気持ちはどうなんだろう?岬が僕と同じで、僕をただの暇潰しに利用してるだけであって欲しかった。だってそうじゃないと、本当に僕は _____
「傲慢、なのかな…?」
岬の膝に縋り付くように尋ねた。求める答えは他でもない否定だ。そんなことないよ、の一言が欲しい。そして岬はその答えをくれる。
「そんなことないよ、僕も君を利用してる。大事な大事な君を、僕のエゴで、僕が君を利用しているんだよ。だから君は気にしなくていい」
相変わらずあやすような手つきで声で。1つ1つを僕に言い聞かせるようの確かめるような口調だった。
「だったら…、優しくしないで」
岬は僕の目尻に溜まった涙に音を立てて吸い付いた。
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