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脆い
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胡散臭いおやじに付き合ってられない。俺は話すなら勝手にどうぞ、と田崎を一瞥し中山たちの分の資料を引き寄せた。
「前はあんな素直にいろいろ話してくれて心開いてくれたのかと思ったのに、どういう心境の変化かな?」
「気のせいじゃないですか?心開いてますよ。とっても。」
田崎はクスクスと笑って、いつものように頬杖を付いた。そして話し出すのだ。俺が聞きたくない話を。
「きいてよー。僕のお気に入りの子の話。」
ぴく、と反応してしまった自分が悔しい。
お気に入りって何だよ。いや待て恭介と決まった訳じゃない。思わず止まってしまったペンを慌てて動かした。
「…若いって、愚かだねえ」
そんな俺を見て田崎は先程までとは少し低い声で言った。言葉の意図が分からず視線を投げると、怪しく微笑む田崎と目が合った。
「…分りやすくって。大人になったつもりで。本当に愚かで壊れやすい。」
「…どういう意味ですか」
俺が問うと、田崎の顔がぱっと明るくなり元の胡散臭い笑顔に戻った。僕の心理学的見解だよーと間延びした声で言った。
「でね、最近の僕のマイブームがバーに通う事なんだけどー、そこでバーテンしてる子がいるんだ」
「…へえ。バーって、あの?」
「そうそう!へえ、君も知ってるんだ?」
挑発するような視線をひしひしと感じる。何なんだ、面倒臭い。嫌だ。別に聞きたくない。
「とっても美人でとっても可愛い子でね。いっつも寂しそうで危ういって言うのかな。すぐ泣いちゃうんだよ」
恭介はこいつの前で泣くのか。涙を見せるって事は余程気を許していることなのだろうか。それとも、やはりバー以外でも会ってる、とかそういうことか。
「泣いた後の目がセクシーでね、赤く腫れて、煽情的なんだ。…全部奪いたくなる」
気付けば強く机を叩いていて、ドンッ!と大きな音が静かな部屋に響いた。ぐしゃりと握ったレポート用紙が俺の手に纏わりつく。その「お気に入り」の子の話を聞いているだけなのに手汗をかいていた。
それ以上言うなという意味を込めて田崎を睨んだ。相変わらずの薄ら笑いがどうにも俺の神経を逆撫でする。
「なになにー?怖い顔しないでよ。なんか気に障るような事言った?言ってないよね、晴くんとは関係のない子の話だし?」
「…してないっすよ、怖い顔なんて」
握ったせいで皺の寄った紙を伸ばしながら必死で心を落ち着かせた。落ち着け、落ち着け。田崎の挑発するような態度にいちいち腹を立てるなんて馬鹿馬鹿しい。
「まあその子はもちろん男の子で、ゲイなわけなんだけど」
「…へえ、そうなんすね」
「その子がそうなっちゃった理由がこれまた可哀想でさ」
ゲイになる事に理由もくそもあるのだろうか。
そういうのって生まれ付きというか、持って生まれたものなのではないのか。…となると恭介の場合は?でも確かあいつ、高校時代は普通に女子と付き合っていたと思う。
「なんかねーノンケの親友と寝ちゃったんだって。しかも向こうから。それから男じゃないとイケなくなっちゃって、ゲイの仲間入りと。しかもーその親友っていうのがー」
「あのっ!」
田崎が言い掛けたところで俺は思わず遮った。これが本当に恭介の話だったとしたら。
もしかして、俺が。
「…俺なんか、体調悪いんで、帰ります。失礼します」
きゅうと胃を掴まれるようなそんな感覚がして俺は足早に大学を後にした。1人になりたい、とにかく1人になってこの回らない思考をどうにかしたい。
「なんだよそれ…!」
俺は恭介を全然知らない。
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