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思い出して
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「俺、名前思い出したんです。あの幼馴染の」
タクシーに揺られながら流れる景色を横目に俺は電話の向こうの田崎にぽつりと呟いた。
「その話聞きたいのはやまやまなんだけど、僕ももう出ないといけないから…」
急いでくださいと頼んだタクシーは他の車を追い越してびゅんびゅんと景色が流れていく。なんだか泣きそうだった。恭介に何かあったらどうしよう。
「きょうちゃんって呼んでたんです、俺」
田崎の言葉を遮って俺は続ける。雨がぽつりぽつりと降り始め窓に斑点を作った。
「本当は俺気付いてたんです…。母親に確認すれば1発なんすけどなんか怖くて」
俺のうわ言のように並べられた言葉を田崎は黙って聞いていた。こんなオッサン嫌いなのに、どうして話してしまうのだろう。
「…俺の母親と、あいつの母親、すげえ仲良かったから」
ぼーっとしていて危うく耳から携帯電話を離しかけた時田崎の声が聞こえてはっとする。そうだこの人この後用事があるんだっけ。受話器の向こうでバタバタと動く音や車の音がして、こんな話に付き合わせているのを申し訳なく思った。
「男がキスマークを付ける理由はね」
「…は?」
「独占欲を満たしたいから。自分のものだと相手の体に刻みたいから。あとは浮気されたくないから。あともう一つ」
脈絡の無さに返す言葉を見失っている俺に構うことなく田崎は続けた。
「離れている時自分を思い出して欲しいから。自分のことを忘れて欲しくないからだよ」
あの日恭介の体にいくつもいくつも痕を残したのを思い出した。馬鹿みたいに必死で、あの時俺が感じていたのは___________嫉妬?
「任せたよ」
そう言って通話は途切れた。キスマークの話は一体何だったんだ。とはいえ、気付けばもうすぐ目的地に近付いている。普段めったに来ない静かな住宅街を奥に入った山の麓まで来ていた。
余計な事は考えずに、とりあえず今は恭介の無事だけを祈ろう。ようやく実感が湧いてまた冷や汗がたらりと伝った。
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