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籠の中の鳥
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同性愛者である彼を、孤独な彼を、最初は可哀想だと思った。寂しくて、弱くて、美しい人。
妖艶な雰囲気を纏っている癖に蓋を開けてみればただの少年がそこに居た。
ただただ寂しくて、私の差し伸べた手に擦り寄ってきた彼から私は目を離す事が出来なかった。彼は何も持っては居なかった。温かい家族や、気の許せる友達や、愛し合える相手も、勿論立場や名声なんてものも。それなのに彼は私に無いものを持っている。
「忘れられないんです」
そう言ってただ1人を好きだと、叶わない恋をし続ける彼を、僕は自由だと思った。私にはない自由だ。そうか私は、本物の恋をしたことが無かったのだ。この歳になってこんな子に気付かされるなんて。
「利用してるだけでしょ?」
いつか泣きそうな顔でそう言った彼を私は忘れない。彼は狡い。どんなに優しくしても彼の心を僕は手に入れる事が出来なかった。それでもなかなか振り向いてくれない彼を、叶わないと思えば思う程、私の中の彼への気持ちは大きくなっていった。
___________ああこれが人を好きになるという事か。
彼がくれたこの気持ちは酷く厄介で、それでも私にとっては新鮮だった。彼が数年早く生まれて来てくれていたら、彼ともう少し早く出会っていたら、そんな風に考えている時間さえも私にとっては尊い。そう、尊いのだ。
小鳥を籠に閉じ込めるだろう?飛んで行ってしまわないように、自由を奪うのだ。じっくりじっくり溶かして落として、私しか居なくなってしまえばいいと、彼がその想い人に捨てられる日を心待ちにしていた。
早く嫌われろ。早く落ちろ。君から私を求めればいい。早く手に入れたい。
彼のお陰で私の世界にぱっと色が映えるようだった。嫉妬とか執着とかいう醜い色も私にとっては貴重だった。とてもとても興味深い。この為なら気の進まない接待も良き夫を演じることも全く苦じゃない。
でもやはり、君は私のものにはならなかったね。
「頭が真っ白になりました。あの子にもう会わないと言われた時」
数日間連絡が取れずにいて本当に心配した。その相手の男と何かあったのだろうか、まさか自殺なんて考えていないだろうな。それとも病気か何かだろうか。もしかしてバーで変な客に捕まったとか?彼は綺麗過ぎるから男を惹きつける。私もその1人だ。
それなのにやっと連絡が取れたと思ったら。
「その頃ちょうど不倫が職場や家族にばれて、それでも彼のことも心配で、とにかく彼の無事だけを確認したくて、その一心だったのに」
頭に血が昇るどころか、一気に体温が引いていくようだった。本物の怒りとはこういうものなのか。彼は私に、初めての感情ばかりプレゼントしてくれる。だけどこの気持ちは要らない、要らないな。
「もうどうせ手に入らないなら、全て失うなら、彼を奪ってしまおうと思ったんです。だから、待ち合わせたカフェで彼の分のコーヒーに睡眠薬を淹れました」
目を閉じると彼の申し訳なさそうな顔が浮かぶ。本当にごめんなさいと何度も謝った彼の顔。
「彼、コーヒー苦手なんですけどね。私が自分の分も頼んでくれたんだと察してしっかり飲んでくれました。態と彼の嫌いなコーヒーにしたのは最後の私の逃げ道でもあったのかもしれないな。」
「それで眠らせて自分の車で誘拐した、と」
「そうです。今まで感じたことのない高揚感を味わいました」
貴方はこんなに誰かを欲しいと思ったことがあるだろうか。私はこの歳になるまで無かったよ。ここまで執着することも、失うことがどうしようもなく怖くなることも、思い通りにならないことに癇癪を起こすことも。
「監禁してみて、分かる事がありました」
いくら手に入れたとしても、彼の心まで自分のものにすることは出来ないということ。
至極当たり前で笑えてくるだろう。
あんな状況に陥っても彼は彼だった。私に溶かされる事もなかった。その綺麗な瞳には勿論私は映っていなくて、その瞼は固く固く瞑られていた。
彼を精神的に追い詰め、無理矢理でも私のものになると言わせても、私の不安は拭えない。私の欲求は満たせない。分からないから私は怖くてたまらなかった。酷く空っぽな目で私を見るから何もかも壊したくなった。壊れてしまえと何度も願った。
「でも私は、私のものにならない彼が好きだったみたいで。厄介でしょう?自分で重々承知です」
最初は天使だと思った。仲良くなるにつれて可愛らしい小悪魔だと思った。監禁してから彼に抱いたのは、何だろう。
「好きにしてください」
彼にとっては苦痛な筈のセックスを受け入れられた時私は堪らない気持ちになった。もう彼とは対等でないような気がした。君はこんなに美しくて私よりずっとずっと自由なのに、どうしてそんな簡単に君は君を諦めるんだ。遣る瀬無い気持ちが溢れてそれが苛立ちになる。
同時に自分も何に怒っているのかさえ分からずに、私は彼の体を無茶苦茶に掻き抱いた。
どんなに羞恥を煽ってもどんなに何度も攻め立てても彼は乱れなかった。いや、快感そのものには確かに反応しているのだが、このまま快感を体に嫌という程刷り込めばもっと気が狂ったように私を求めたりするのを期待していたのだ。
表情を硬くして、ただ行為が終わるのを待っている。そんな彼が私はもどかしかった。
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