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知っていること
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「朝から一日中ずっと手錠で繋いでたんです。疲れてる彼を起こして、まずは玩具で遊ばせます。その様子をゆっくり堪能してから、お楽しみの始まりです」
私は、手口を始め監禁生活から彼に浴びせた言葉の暴力の数々、その時の自分の心境まで事細かに弁護士に告白した。あの刑事とは違って顔色一つ変えない目の前の弁護士は淡々と私に最小限の質問をし、手帳にメモを取りながらそれに応じた。
「罪を逃れたいとか、軽くして欲しいとか、許されたいとかは全く思っていません。これで全てです、弁護士さん。もう何もありません」
「わかりました。…最後に一ついいですか?」
真面目そうな弁護士だった。短髪で長身の、冷たい目をした人物。
「…何か伝えたいことはありますか。彼に」
今までずっと手帳に落とされていた視線が私を捉え、射抜くようなそれに一瞬ぼうっとしてしまっていた。私はぼんやりとその瞳を見つめ返し思考を巡らせる。そうだな、彼に伝えたい事か。今更何を言っても遅いだろう。
「…特には。私は彼を傷付けた。弁解や謝罪をしてそれを貴方が伝えてくれたとして何にもならないでしょう。」
初めて彼を見た時、天使だと思った。
親しくなるに連れて可愛らしい小悪魔だと思った。
彼と出会って輝き始めた日常に、彼に出会えて良かったと思った。
手に入らない現実を知って彼を憎いと思った。
全てをあの晴という少年に暴かれた時絶対に渡したくないと思った。
警察に連れて行かれる時、出逢わなければ良かったと思った。
「…いや、でも一つだけいいですか」
「何でしょう」
「出逢わなければ良かったなんて、嘘だと」
世の中の人間は、なんて器用なんだと常々思う。恋愛感情なんて厄介な代物をどうして上手くコントロールしているのだろうか。私には無理だった。人間は愚かなもので、勝手に好きになって置いて、結局はその見返りを求めるのだ。
愛する人に、愛されたい。
好かれたい、求められたい、支配したい、そんな感情と上手く付き合っていくことが私にはどうしても出来なかった。
「…了解しました」
それでも、それを知らない今までの自分よりよっぽどましだと思うのだ。知らない、という事はとても愚かだと思う。
犯罪者になった私を、最低な事をした私を、誰も理解してはくれないだろうけれど、私はそれでもなるべくしてこうなったのだとそう思う。
「天使に恋をしたんです」
私にはもうどうする事も出来ないが、喜んで裁きを受けよう。
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