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全部怖い
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「あーよかった。食ってくれて」
今まで晴に料理を作って貰った事なんてあっただろうか。気が進まないと思いつつ、食わねえなら捨てるとか言うから結局一緒にテーブルを囲み、更には平らげたところだ。
気まずくて顔を見られない僕に、晴は笑顔を向ける。僕は空になった皿へと視線を落とした。
「俺今日泊まるから。なんか部屋着貸せよなー」
そう言って空いた皿を手に立ち上がった晴をぎょっとして見詰める。相変わらず笑みを浮かべたままの晴と目が合った。
「ちょっ、そんな勝手に…!」
「あ、やっとこっち向いた」
「茶化さないでってば、」
晴は聞く耳を全く持たずに、何をするでもなくずっとうちにいた。それはまるで、ただ僕と一緒に居てくれているかのように。
結局その日晴は、あたかも自分の家のように勝手に風呂に入って、勝手にテレビを見て、深夜1時を過ぎる頃には勝手に僕のベッドに入って来た。
いちいち文句を言っても動じない事はもうとっくに分かっていて、僕は晴に背を向けシーツに顔を押し付けた。晴が少し動く度狭いベッドが軋んだ音を立てて僕は堪らなくなる。今まで幾度となくここで抱かれた記憶が今も生々しく残っていて、心臓がキリキリと痛むからだ。
何度強く瞼を瞑っても眠気は襲って来なくて、僕は体を小さくした。後ろから晴が僕の名前を呼ぶ声がして、晴の大きなその手が伸びて来る。ぐいと引き寄せられて大きな体に包み込まれた。
「…なんか久々」
晴により強く抱き締められて泣きたくなった。もう勘弁して欲しい、やはり晴と居ると僕は僕で居られない。
「…やめて、手、離して」
晴は何も言わない。ただ抱き締めた腕を離そうともしなかった。
「…晴は僕の事なんだと思ってるの?」
上擦りそうになる声を必死で堪えながら唇を噛み締めた。心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと逃げるように体を更に丸めても、晴はすぐに僕を引き寄せた。
「セフレ?友達?…でも普通の友達はこんなことしないよね」
二番目に言いたい事しか、人には言えない。一番伝えたい想いは結局、喉につっかえて飲み込んでしまうのだ。
晴が好きだ。昔からずっと好きだった。晴と一緒に居られるなら何だって我慢できる筈だった。
きっと少し前の自分なら、晴が僕の髪を撫でていてくれた事も、野菜の大きさがバラバラな焼きそばを作ってくれた事も、こんなふうに抱き締めてくれる事も、きっと喜んでいただろう。晴の帰りを待っているかもしれない彼女に優越感を覚えて、きっと少し嬉しくなる。それですぐに虚しくなる。それでも結局流されて、まあいいかと眠りに落ちるのだ。
けど今は違う。
これ以上一緒に居ていけないと僕の中の何かが叫ぶのだ。これ以上好きになってはいけない。晴が僕に優しくしてくれるのなら尚更駄目だと。
フラッシュバックするようにあの日の岬の顔が脳裏に過る。青い血管を浮き出させて、何度も何度も頭の中に響くような声で、
___________ 君は周りを不幸にするんだ
その通りだと思う。考えて見れば僕の周りには世間一般が言う「幸せ」なんてものがちっとも転がっては居なかった。僕がそれを見出せたのは晴と出会ってからのほんのちょっと、僕が晴を好きになるまでだけかもしれない。
きっと周りが悪いんじゃなくてその原因は僕にあるのだろう。ここまできたらそうとしか思えない。
「お前は何が怖いの」
晴の低い声が耳元で聞こえて僕の思考は中断された。何を言っているんだろう、質問の意図がわからない。
「なんでそんなに拒むんだよ。…そのくせ1人にしたらお前、消えちまいそうで怖いんだって」
僕の中で虚しさや悔しさが溢れかえって、僕はとうとう涙を堪えることが出来なくなった。肩が震える、もう泣いていることはとっくに暴露ているだろう。それすら悔しい。どうしていつもこうなんだ。
「僕は平気だし…!もうこういうの嫌だって言ってるじゃん、…さっさと彼女のとこにでも帰んなよ」
必死で伝えたのにも関わらずあろうことか晴はくすりと笑った。その瞬間に、馬鹿にされた気がしてカッと顔が熱くなる。もうたくさんだった、急いで廻された晴の手を跳ね除け、あの端正な顔を睨み付けた時だった。
「俺、お前の事好きだよ」
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