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真意
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「…何言ってんの?」
唐突な晴の言葉に反論する気も失せた。ひゅっと喉が鳴って、少しだけ開いたカーテンの隙間からうっすらとさしていた光がほんの一瞬濃くなった気がした。
それは紛れもなく、喉から手が出る程欲しかった筈の言葉なのに。
「…僕のこと馬鹿にしてる?…さすがに酷いよ」
好きって、なんだ。そんな軽いものなのか。友達として普通に好きの好きか。それとも同情か何かか?それとも悪ふざけで、僕がどんな反応するか面白がっている?浮かんでは消える不安が僕を支配して脈を打つ鼓動が速くなっていく。
「馬鹿になんかしてない」
「してるよ。…馬鹿にされても仕方ないのかもしれないけど、僕の晴を好きな気持ちまで馬鹿にされたくなかった。」
本気で好きだったのに。何だかんだ言っても僕がここまでやって来れたのは晴が居たからだ。あそこに閉じ込められた時も幾度となく晴の顔が思い浮かんだ。何度も晴の名前を呼んだ。何度も晴の夢を見たし、最後にもう一度会いたいと願った。
やっぱり、伝えるべきじゃなかった。
「…晴はいっつもそうだよ。思わせ振りな態度で最後には突き放すくせに」
こんなに苦しいのもこんなに馬鹿みたいなのも全て晴のせいだ。泣きたくないのに頬を涙が伝って体を起こして膝を抱えれば、自らの膝に額を擦り付けて丸くなった。何よりもう消えてしまいたかった。
「…お前俺のこと悪者にしすぎ。仮にも好きな相手だろ」
シーツの擦れる音で晴も起き上がったのが分かった。僕の肩を軽く小突いて呆れたような声で晴は言った。
「…だって晴、何も分かってない」
「…でもそれはお前もそうだろ。お前も俺の事全て分かってる訳じゃない。さっきから全部決め付けてる」
晴のむっとしたような声がして、僕は更に体を丸めた。これじゃあきっと収拾がつかないだろう。
でもそもそもこの着地点のない話を始めたのは晴で、突然変なことを言い出したのも晴で、そんな事をぐるぐると考え出したらきりが無い。一番収拾が付かないのは僕自身のこの感情だ。
「…お前だって俺の事好きとか言いながら、他の男と寝てたんじゃねえかよ」
ぷつりと思考を途切れさせたのは晴のそんな拗ねたような言葉だった。思わず顔を上げて晴を見れば当の本人はきまり悪そうに視線を逸らした。
「なに、それ」
「俺のこと好きだって言ってて他の男と寝たり、しかも不倫でも付き合ってたんだろ、それってなんか…」
僕は晴の意図が分からなくてじっと見つめた。正直そういう道徳的なことを晴に責められる筋合いはこれっぽっちも無い。
いつの間にか涙は止まっていて、頬の上で乾き始めた涙をごしごしと袖で拭った。泣き過ぎたせいか頭に鈍い痛みが走る。
「…じゃあ、片思いの人は一生1人で居なきゃいけないのかな」
「…そうは言わねえけど」
結局黙ってしまったせいで重苦しい沈黙が流れた。上手くいかないな、と思う。今まで上手くいったことなんてないのだけど。この世の中はどうしても生きづらい。もっと器用になれたらどんなにいいだろう。
もっと上手く立ち回って、親友のまま晴と一緒にいられたら。僕に一人の寂しさに負けない強さがあれば、岬と出会うこともなかったのだろう。
「…しかも、お前は忘れてるくせに」
向けられた僕を咎めるような視線に、僕は何も考えられなくなった。考えたところで思い当たる節もないのだが。
「何のこと?」
「お前は俺のこと、忘れてるくせに」
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