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想起
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晴はまっすぐに僕を見詰めて本当の気持ちを言ってくれと言う。自分はもう何も隠す事はないから聞きたい事があれば聞いて欲しいし、その代わりお前の真意も聞かせてくれと。
晴が僕を好きだと言う。
僕を自分のものにしたいと言う。
向けられた真摯な視線も握られた手から伝わってくる体温も全てがあの大好きな晴のものであって、ここに居るのも晴なのに、晴じゃない気がしてしまう。
「…真剣だから、恭介を守りたいし離したくない」
この言葉を信じて、差し伸べられた手に縋ってもよいのだろうか。地獄のような孤独を彷徨っていた僕が、汚れてしまった僕が、その手を取っても許される?本当に好きな人と幸せになりたいだなんて、望んでもよいのだろうか。
僕は握られた手にほんの少し力を込めた。そうすると目の前の人が握り返してくれる。ほんの少し目尻を下げて優しい視線を投げてくれる。僕の中の答えは1つだ。何だっていいからこの人と居たい、側に居たい、離れたくなんてない。
でもそう思った瞬間にあの時の岬の声が頭の中で響くのだ。
『君なんかじゃ、晴くんが可哀想だよ』
何が悲しいってその言葉を自分自身が納得しざるを得なかったこと。だってそうだ、晴は眩しいんだ。僕にとって眩しい人だ。絶対に僕なんかとじゃ釣り合わない。せいぜい都合の良いセフレが僕にはお似合いだった。
何か話そうとして息を吸うと喉がひゅっと音をたてる。苦しくて仕方がなかった。
「…僕といるときっと、晴が不幸になる」
喉の絡みつくような乾きのせいで絞り出した声は掠れ馬鹿みたいに辿々しかった。
「…なんだそれ。お前といれない事の方が不幸なんだけど」
「違う、だって、」
例えばもし、岬と同じようにきっと2人の関係が壊れてしまって僕が晴を傷付けたりあるいは晴が僕を嫌いになったりしたら。
『出会わなければよかった』
あの日の岬のようにそう言って立ち去っていく後ろ姿が容易に想像できる。もし現実に、面と向かって言われたならもう僕は今度こそ立ち直れない。死んだ方がましだ。
新しい生活を始めれば新しい自分になれば新しい環境に身を置けば、そんなふうに考えていたけれどそんなの虚しい。僕は僕を辞められない。
そもそも僕は本当に被害者なのだろうか。確かに監禁されたし乱暴もされたけれどあんな行動に走らせたのは僕だ。岬の気持ちを軽んじた罰だと思う。自分の好きな人に好きな人が居る、そんな苦しみを僕は痛いほど知っていた筈なのに。
岬をきっと何度も何度も傷付けた。
そんな岬はこの先ずっと1人で、帰る所も無ければ待っていてくれる人もいないのだ。
あの時僕が差し伸べられた手を取ったせい。左手の薬指に指輪の嵌った手に縋ったせい。彼の人生における普通の幸せを僕が蝕んだのだ。
「…僕だけ幸せになんて、なれないよ」
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