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これからの話
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「どうする?これから」
僕と晴はテーブルを囲んで、晴はコーヒー、僕はミルクココアをふーふーと冷ましながらちびちびと飲んでいた。漠然とした〝これから‘’というワードは勿論二人のこと、それから僕自身のことについてでもある。
「…大学は正直もう辞めようと思ってる」
晴が突然うちに来て、それから焼きそばを食べて、その後胸の内を打ち明けセックスをしたのはおとといの話。蒸し暑かったあの日とは打って変わって今日は肌寒く秋の訪れを感じさせる。
「平気か?…まあ俺はお前が決めた事ならとやかくは言わねえよ」
晴はまっすぐに僕を見詰めてはいるけど心配そうな表情を浮かべていた。
〝これから‘’に晴が触れないで居てくれたのは相変わらず塞ぎ込んでいる僕に気を遣っての事なのだろう。晴がこんなに真剣になってくれるなら僕もちゃんと現実と向き合っていかなければいけない。
「もう全然行ってないし、それにもともと何か目的があって行ってた訳でもないんだ。」
ほんの少し苦笑してみると晴はそうかと頷いてそれ以上は聞かなかった。ココアを一口飲むと晴も同じようにコーヒーを飲んでその喉仏が動くのが見えた。
「…バイトは、今日マスターに電話しようと思う。先輩からメール来てたんだ、いつでも戻って来いよって言ってくれてて」
先輩からのメールを見たのは今朝だった。内容は心配してたということ、水臭えよというお叱りの言葉、それからいつでも戻って来いよということ。とは言っても先輩はあのバーの従業員でもなければそんな権限もないのだけれど。
それでもあの先輩がそんなメールをわざわざ僕に打ってくれたのだと思うとつい嬉しくて、胸がぽっと暖かくなった。
「…ふーん、先輩って男?」
若干拗ねたような声の晴に僕は首を傾げて、そうだよ、と答えた。へえ、と言ったきり黙ってしまうものだから何なのかと顔を覗き込むとふいと視線を逸らされてしまった。
「…メールとか、するんだなーって思っただけだし。それにすげえ嬉しそうだから、」
それは俗に言う嫉妬…と取って良いのだろうか。
なんだか、こういうのやっぱり慣れない。返す言葉が見つからなくて慌ててもう一口煽ったココアの味はより一層甘く感じた。
「…まあそれはさておき!なんかもっとねえの?話しておきたいこととか、聞きたいこととか、…不安?とか」
軽く咳払いをして晴はまた話を元に戻した。
不安なんて言い出したらきりがない気がする。けれどそれ以前に僕には1つ気になることがあった。
「田崎さんって、…その今どうしてるのかなって」
「あー、先生な。変わんねえよ、暫く学会やら出張やらで忙しそうで恭介が退院して戻って来たってことは伝えたけど、俺もちゃんとは話せてない」
今回のことでかなり迷惑を掛けてしまった自覚はある。晴いわく、田崎がいなかったら助け出せてなかったと言う程だ。このまま何の謝罪もなしにという訳にはいかないと思う。しかしクリニックでの一件もあるし僕が晴に田崎に会いたいという主旨の話をするのもどうなのだろう…?そんなふうに考えあぐねていた僕を見兼ねてか、晴は半ば呆れたように小さく笑った。
「じゃあ、二人で会いに行くか。時間作ってくれるように頼んどく」
晴がにっと口角を上げて優しい視線を向けてくれるから僕も嬉しくなってつられるように微笑んだ。
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