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「あのなぁ…俺来んのわかってて飲むなよ」
テーブルの上に置いてた飲みかけのビールをリカちゃんが手に取り飲み干す。
「これから禁酒な」
「は?なんでテメェに決められんだよ」
「お前の先生だからね、俺」
言うだけ言ってベランダに出たリカちゃんはタバコに火をつけた。
変なとこで気遣いする変わったヤツ。
まだ1月で外は寒い。リカちゃんの着てる部屋着じゃ風邪でもひきそうだ。
「寒くねぇの?」
「クソ寒い。何?気にしてくれてんの?」
「別に。寒いなら中で吸えばいいだろ」
中に入るよう促し、リカちゃんが飲み干したビールの空き缶に水を入れる。
「ほら」
それをテーブルの上に置いてやれば、リカちゃんは肩をすくめて小さく笑った。
「…ふ。お前ウサギのくせに猫みてぇなヤツだな。
距離とるのに、たまに擦り寄ってくる」
「寄ってねぇよ」
咥えタバコのままソファに沈んだリカちゃんからタバコの匂いがする。って当たり前か。
「リカちゃんのタバコ、変わったデザインだな」
黒い箱に赤い英文字。そのシンプルさが、なんだかリカちゃんっぽい。
「あんま売ってるとこ無ぇからな。っつかお前、リカちゃん呼びに慣れんの早くね?お前のキャラでちゃん付けって意外なんだけど」
「テメェが先生も苗字もダメだっつったんだろ。
俺バカだから使い分けとかできねぇし」
「ああ。納得した」
納得してんじゃねぇよ。
クソ腹立つ野郎め。
「あ、忘れてた」
フッと笑ってタバコを消したリカちゃんは、思い出したようにポケットからスマホを取り出した。
「ウサギ。お前の番号は?」
「なんで俺がテメェと番号交換しなきゃなんねぇんだよ」
「なんでってこれから連絡する事だってあんだろ」
この数時間でわかったけどリカちゃんは強引だ。
強引で意地悪い。あと俺様気質。
リカちゃんはやると言ったらやる。だからここで俺がいくら拒否っても無駄。
それが既にわかってるから俺はやけくそ気味に番号を口にした。
ちょっとの反抗心を込めて早口で。
それなのに聞き取ったリカちゃんはスラスラと指を動かす。
すぐにポケットの中のスマホが震えたが、相手は目の前のニヤけた野郎だから確認もしない。
「それ俺の番号だから。あとLINEも送っといたから登録しとけよ。
晩飯いらねぇ時は前もって連絡しろ」
俺のスマホにはあまり連絡先が登録されてない。
その少ないメモリーに加わった名前は『リカちゃん』
近づいちゃいけない男との距離がどんどん近くなっていく。
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