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「何の冗談言ってんだよ。構ってやれなかったから家出して、迎えに行かなかったから今度はいたずらか?」
あまりにもな言い様に呆れると、ウサギは真剣そのものに言い返してくる。
「冗談でも、いたずらでもなくて本気だ」
「それなら尚更笑えない」
立ち上がった俺とウサギの視線が合う。先ほどと違い、今度はウサギが見上げてくる番だった。
それなのに、その視線は強く真っ直ぐに向かってきた。
俺が1歩近づけば逃げるどころかウサギも進む。顔を合わせたまま、お互いに歩み寄ってその距離はほとんど無くなる。
ジッと見つめたまま外れない視線。ウサギはワガママだけれど無意味な嫌がらせはしない。2人の関係を誰かに吹聴して回るようなバカなら好きになんてなっていない。
それがわかっているからこそ、この行動の意味がわからなくて困る。
無理矢理に奪い返すのは簡単で、けれどそれをしてしまったらウサギの言いたくても言えない本音を殺してしまう気がした。
きっと何か理由があるはず。そう思った俺はとにかく話をするべきだとウサギの手を取る。
今度は振り払われなかったのを良しとして部屋を出た。
あんな視聴覚室よりも安心できる場所。学校という限られた範囲で俺が1番に自由を発揮できる空間。
それは科目室以外に無い。
手首を掴んで前を進む俺と黙って後ろをついてくるウサギ。傍目には授業をサボった生徒を連れる教師と今からお説教を受ける生徒。ここにいる9割以上がそう思うはずだし、そうでなければいけない関係。
それなのに崩そうとするのはなぜか。
それを聞くために足早に自身の根城へと向かう。すぐにたどり着いた扉を開けて中に入った。
奥に置いてある机には向かわずに手前の質素なソファに2人並んで座る。
「時間もないから単刀直入に聞く。俺とお前が一緒に住んでるなんて言って問題にならないとでも思ってるのか?」
「クラスも授業も別なのに何の問題があんだよ」
「大ありだから言ってるんだ。どこの世界に兄弟でも、ましてや友人でもない男と一緒に住むやつがいる?それこそ俺とお前の年の差を考えろ」
俺が言っているのは正論だ。たとえクラスが離れた今でも、同居の理由を聞かれたら答えられない。
ウサギの両親に頼まれたなんて都合の良い、とってつけた理由がまかり通るわけがない。
そもそも、もし仮にそうだったのなら事前に報告する義務がある。
隣に座るのは保護者が必要な未成年、そして自分の学校の生徒。そいつがソファの上で胡座をかく。頬杖をついて面白くなさそうに横目で俺を見た。
「……だからだろ」
ボソッと不服そうな言葉は一旦止まってまた始まる。
「俺とリカちゃんが一緒にいても周りから見たら先生と生徒、外じゃ似てない兄弟だって言われるだけだ」
横目で見ていたのが今度は下を向いてしまう。俯いた顔じゃ表情は窺い知れないけれど、その声が教えてくれる。
「誰もリカちゃんが俺のだって知らない。誰にも言えない、そんなのやだ」
やっぱり、ただのワガママ。それは、いつにも増して度が過ぎたワガママだった。
「…外はともかく学校じゃ仕方ないことだろ」
感情を抑えて諭す俺に、ウサギが頭を振る。
「仕方なくてもやだ。リカちゃんは俺のものなんだから他のヤツに目付けられてたまるか」
止まらない『やだやだ攻撃』
縄張り意識のようなそれは男らしく、嫉妬深いウサギなら常にあるものだろうけれど方法が良くない。
「だからって言っていいことと悪いことがあるだろ。それぐらいお前ならわかってるはずだ」
「わかってる……けど、やだ」
「慧」
名前を呼んで諌める俺に、ウサギが顔だけじゃなく身体ごとこちらを向く。そして勢いよく飛び込んできた。
さっきは引き倒され、今は押し倒されて…今日はよく背中を打ち付ける俺の胸元に埋まったウサギが、目線だけをこちらに合わせる。
「俺はリカちゃんだけなのに、リカちゃんは俺だけじゃない。みんなと同じじゃやだ」
寂しさをいっぱいに溜めた瞳が揺れ、静かに閉じてまた開く。すぅっと息を吸い込んだウサギが、休む間もなく早口で捲し立てた。
「一緒に住んでるの言っちゃダメなら首輪付けさせろ。お前の飼い主は俺だって印がほしい…ってか付ける。ダメだって言っても聞かない」
その目は完全に据わっていた。
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