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卒業式【牛島歩×大熊桃太郎】
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「桃さん!!!」
退場して直後、歩ちゃんがこちらまでやって来た。
「なんで?なんで桃さんと母さんが」
あたしと桜さんを交互に見てため息をつく。
「来るなって言ったのに……」
呆れた歩ちゃんに言い返したのは桜さんだ。
「なんで息子の卒業式に来ちゃ駄目なのよ。ここの学費、誰が出してやってると思ってんの?」
「それはあの細菌バカの親父だろ」
「そうよ」
淡々とした会話はさすが親子といったところだろうか。父親をバカと言っても怒らないどころか認めてしまう桜さんに笑いが零れた。
思わず笑ってしまったあたしを、歩ちゃんが冷たく射る。
「桃さんも。俺、来るなって言いましたよね?」
「それはそうなんだけど…どうしても来たくて」
「母さんのことだから絶対に桃さんに絡むと思ったんだよ。なんで言う事聞けないんすか?」
歩ちゃんの鋭い視線が怖くてあたしは後ずさる。すると、隣にいた桜さんが歩ちゃんの耳を抓った。
「―っ、痛ってぇな!!何すんだよ?!」
「生意気な口きいたお仕置き」
「お前…っ、マジで腹立つ!」
なんだか桜さん相手には幼い歩ちゃん。眉を顰めて耳を摩り、ぶつくさ文句を言うけれど桜さんは気にしない。
「とにかく。俺もう教室行くから2人はおとなしく帰れよ。桃さん、この人に誘われてもついて行っちゃダメですからね」
「それは無理ね、桃ちゃんとお茶しようと思っていい店予約したもの」
「気安く桃ちゃんって呼ぶな」
「じゃあ桃?桃って呼び方もいいわね」
桜さんに翻弄される歩ちゃんが「チッ」と舌を打つ。その手が伸びて来て、あたしのスーツの襟を掴んだ。
……手でも腰でもなく、襟なところが歩ちゃんらしい。
「コレは俺の。いくら母さんでも呼び捨ては許さない」
パッと離された身体がぐらつく。それを支えてくれた歩ちゃんが至近距離で睨んできた。
「桃さんも簡単に懐いて何してんすか?帰ったらお仕置きだから覚悟しておいてくださいね」
「おっ…え、歩ちゃん?!」
「終わったらすぐ桃さんの家行くから。もし家に居なかったら俺、何するかわかんないんで」
最後に桜さんに念を押し、歩ちゃんは校舎へと入っていく。
残されたあたしを桜さんが覗きこむ。その表情は唇を震わせ、とても楽しそうに笑っている。
「桃ちゃん、顔真っ赤よ。歩ってばなかなかやるじゃない」
「桜さん……」
「でもね。すごく偉そうで生意気な子だけど、本当は優しくて寂しがり屋なのよ」
歩ちゃんが消えた先を見つめる桜さんの目は、しっかりとした母親の目だ。からかって遊んでいるように見えて、これが彼女なりのコミュニケーションの取り方なのだろう。
パンッと両手を合わせた桜さんが満面の笑みで言う。
「さぁ、お茶しましょう!」
「でも歩ちゃんが嫌がるんじゃ」
あれだけ怒って嫌がったのに、これ以上怒らせるとこの後が怖い。その気持ちが勝るあたしに彼女がパチンとウインクをする。
そして言った言葉は……誰かさんとソックリな甘い台詞。
「だからこれは2人だけの秘密ね。私と桃ちゃんが特別な証拠」
きっとあたしは、この親子から離れられない運命なのだ。
桜さんとのお茶会の隙に打ったメールの返信が届く。
卒業おめでとう、今日は突然ごめんなさい、帰ってくるの待ってる……歩ちゃんから返ってきた言葉は一言だけ。
『好きだから許す』
それがとても彼らしく、そして嬉しい。
時に喧嘩し、仲直りしてまた喧嘩して。やっぱり喧嘩して、仲直りして。
理想とは全然違う、一回りも年下で生意気で、不愛想だけどとても愛情深い子。あたしの全てを受け止めてくれる子。
この日、あたしの王子様は高校を卒業した。
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