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方向音痴のリカちゃんが、俺を探して大学の中を1人で歩けるわけなんかない。時間的に学校が終わってすぐに来たとしても、見つかるには早すぎる。
じゃあ、どうしてわかったのか。それをリカちゃんに訊ねると、ふっと笑ったリカちゃんがすんなり答えた。
「その辺の子に聞いたら教えてくれた。ここの学生って良い子多いな」
「まさか……お前脅したんじゃないだろうな?!」
「なんでそんなことする必要あんの?あ、蜂屋君もお疲れ」
にっこり笑ったリカちゃんは幸に挨拶し、幸も笑顔で応じる。昨日の礼を幸が言えば、それにリカちゃんは「気にしないで」と愛想よく返事をした。
できれば、その言葉は俺に言ってほしい。
会議がなくなって機嫌のいいリカちゃんが「昨日のことは気にしないで」って言ってくれないかな……なんて淡い希望を抱きながら盗み見ると、不意に目が合った。
その目は昨日よりも冷めていて、抱いた希望は一瞬にして砕け散った。
「帰るよ」
たった一言。それなのに有無を言わせない雰囲気に、俺は咄嗟に目の前に立つ幸の腕を掴んだ。それがリカちゃんの空気を更に凍らせるなんて思いもしなかった……のではなく、そんなことを考えている余裕はなかった。
「慧。俺を怒らせたらどうなるか、わかってるよな?」
ピンと張り詰めた空気に、幸が困ったように俺とリカちゃんを見比べる。
これが歩なら迷わず俺を引き渡すところだけど、幸は俺の味方だった。固まる俺を背中に隠した幸が、リカちゃんと対峙する。
「詳しくは理由わからんけど、なんで牛島さんが迎えに来る必要あんの?ウサマルの彼女に頼まれた、とか?」
「そんなところ。悪いけど俺からは説明するつもりはないから」
「せやけどな、俺も部外者やけど牛島さんもやん?それやのに、無理矢理連れて行くのはどうかと思うねんなぁ」
ヘラッと笑った幸の『部外者』という単語にリカちゃんの眉が動く。当事者だということを言わないのは、俺の為なんだろうけど。それなら、せめてその怖すぎる笑顔をやめてほしい。
リカちゃんが笑う度に、俺の中の危険度が上がっていってるんだから。
幸を間に挟んでリカちゃんを窺う。浮かべるのはやっぱり笑顔なんだけど、組んだ腕を指でトントンと叩いて機嫌は悪い。
こそこそする俺と威嚇する幸を前に、リカちゃんが深いため息をつき、聞いてきた。
「慧はどうしたい?」
帰りたいけど怒られたくなくて、ちょっと不安になって試したら大事になり引き返せなくなった。
本当はここまでするつもりなかった。
でも、それは俺の都合でリカちゃんは何も知らない。
何も知らないうちに勝手に疑われ、試され、それでも俺の気持ちを聞いてくれる。
幸だって肝心なことは教えてないのに、こうして俺に付き合ってくれて、俺の味方をしてくれる。
思い描いていた結果と全く違う展開に、責めるのは自分自身しかいない。
目の前には俺を庇う幸の背中と、俺を見るリカちゃんがいる。ぎゅっと握りしめた拳が突然引かれ、見上げた先にはリカちゃんの黒い瞳ではなく、幸の茶色い瞳があった。
「ウサマルごめん!もう時間やばいから行かなあかん。ってことで、修羅場ごっこは終わりな」
急に明るい声を出した幸が、俺をリカちゃんへと引き渡す。
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