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未だ戻ってこないウサギを待ちつつ、目の前で俯く赤い頭を眺める。昔なら何も気にせず煙草でも吸いに行っているところだが、身体は動こうとしなかった。
人は年齢を重ねると丸くなると言うけれど、それにしては早すぎると思う。
大きく変わった自分に軽く失笑しつつ、テーブルに肘をつき、俯く顔を下から覗いた。
「いいよ、時間つぶしに聞いてやる」
「え?」
「その代わり、俺は肯定も否定もしない。ただ話を聞くだけで良ければな」
戸惑う蜂屋の目が揺れて、けれど沈む。その心の根底にあるものは根深く、長年拗らせていることがわかった。
聞いてほしいと願いつつ言い出せない。初めの言葉が見つからないのか、はたまた勢いを失っただけかは定かではない。それでも根気よく待っていると、少しして蜂屋の口が開く。
「俺は自分で自分がわかれへん。自分は悪くないって思ってるはずやのに、ウサマルに庇われた時に違うって思った。自分は悪くないはずやのに……責められても受け入れられても、どっちでも違うって思ってまう」
矛盾していると言う蜂屋は、俺を見てすぐに目をそらす。そしてまた戻ってきて、でも見続けることは無理なのか、俯く。
「嘘ばっかりの場所におったら安心する。人を蹴落として、騙して、それでも笑っていられるやつを見たら、俺はまだ大丈夫やって思える。ホストとして客に嘘ついて、そのことを悪いと思える自分は、まともな人間なんやって実感できる……せやのに」
「なのに?」
「どんどん変わっていく自分が怖い。前はあった罪悪感も薄れて、忘れようとしてる自分が許されへん。自分は悪くないって思ってるはずやのに、苦しくて仕方ない」
とうとう顔を両手で覆った蜂屋が黙り込み、場に沈黙が流れた。
俺たちの周りには数名の学生がいて、みんな楽しそうに笑っている。それが普通の光景のはずなのに、その中で1人押しつぶされそうになっている蜂屋。
じっと眺めて、俺は静かに口を開いた。
「お前が傷つけたと思ってる相手、今は何してんの?」
「今?そんなん知らん。もう誰とも連絡とってへんし、会うこともないから」
「じゃあ忘れてしまえばいい。会うこともない、話すこともない相手のことなんか忘れて、好きなようにすればいいだけだろ」
蜂屋の頭を占めるのは、過去を置いていこうとする自分への罪悪感。それに嫌悪感。
自分で自分を責めて、自分で自分が許せなくて、自分で自分のことを汚いと嘆く。すごく身に覚えのある行動に嘲笑が漏れる。
「全部忘れちゃえよ。その方が楽になれるのに」
蜂屋に言ったはずの台詞は、何年も自分自身に言っていたものだった。
この赤い髪の男は、過去の俺にそっくりだ。
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