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「嘘つき蜂屋くん」
声が聞こえているくせに答えない。姿が見えているくせに見ようとしない。ここにきて今日1番の幼い反応をする蜂屋を再び呼ぶ。
「嘘つきで泣き虫で、迷子の蜂屋くん」
「別に嘘ちゃうし。泣いてもないし迷子にもなってへん」
「それはどうでもいいけど、今度からは素直に言うこと。素直に『僕の話を聞いてください。どうかお願いします』って頭を下げれば、少しぐらいなら聞いてやらないこともない」
嫌そうな顔を見下ろして言い捨てる。そのまま慧の腕を掴みカフェを出て、大学の構内を歩く。
隣では「本当は何を話してたんだ?!」とキャンキャン騒ぐウサギさんがいるけれど、これ以上騒ぐなら口を塞ぐと脅せばすぐに黙った。
場違いな場所にいる自覚はあって、欲してはいけない人を求めたこともわかっている。それでも止められなくて、傍にいてほしいと願う。
この人のために生きたいと思う。
「楽ではないんだけどね」
この関係は決して楽なんかじゃない。苦しいことの方が多いかもしれない。人知れず漏れた独り言に、慧がこちらを見た。
「楽じゃないって何が?」
「うん、秘密」
「また秘密かよ。今日のリカちゃん、いつもに増して性格悪くない?」
「そんなことはないと思うよ」
にっこりと微笑めば聞いても無駄だと思ったのか、慧は唇を尖らせて顔を背けた。幼すぎる反応に苦笑しつつ、軽く頭を撫でてやると、おずおずと視線が戻ってくる。
「リカちゃん、せめてヒントだけでも」
「ヒント?ヒントか……」
楽じゃないとわかっていても身体が勝手に動き、苦しいとわかっているのに何よりも優先してしまう。
その答えはきっと1つだ。
「俺には慧君しか見えてないんだろうな」
他の選択肢なんて与えてくれない。いつまでも追いかけて、いつまでも待って、少し笑ってくれるだけで全てが幸せに変わっていく。
辛かったことも、悲しかったことも、悔しかったことも全て幸せに結びつく。
全くヒントになっていないと怒った慧が腕を叩いてきて、想像通りの反応に笑ってしまった。殴られて笑う俺を慧は不思議に思ったのだろう、その目が戸惑いの色を見せる。
「リカちゃん?」
ただ名前を呼ばれただけで、生きていて良かったと思える。
明日を無事に迎えたいと思えるようになったのは慧君のおかげだなんて、誰に言っても信じてもらえない。だから溢れる気持ちを別の言葉に変換して今日も伝える。
「俺は慧君だけが好き」
そう言えば君は笑って、また俺に生きる意味をくれる。
他人には理解されない小さな小さな、些細なこと。それが俺にとってはかけがえのないこと。
誰にも理解されなくていい。
誰に何を言われても、永遠に俺は君の味方でいたい。
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