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総勢7人が揃った部屋は、男ばかりとあってか若干狭く感じる。それでもその中に、いわゆるイケメンが4人もいれば、むさ苦しさは感じない。
ちなみに4人っていうのは、俺の目の前に座りワイングラスを傾ける桃ちゃん、歩、幸。それからキッチンで動き回っているリカちゃんだ。
さすがのリカちゃんも全員分を作る時間は作れなかったのか、デリバリーで料理を頼むらしい。それが届くまでのお酒のあてを美馬さんと作っていて、そこにはなぜか拓海も手伝っている。
俺はワイン組の中に入ることもできず、かといって料理もできない。1人でジュースを飲みながら、みんなを見ているだけ。
「だから、絶対にあの噂は嘘よ。今をときめく正統派アイドルが不倫だなんて、絶対にありえないわ」
2杯目のワインを自分のグラスに注ぎながら桃ちゃんが言えば、少し間を空けて座っている幸が皿に乗ったチーズを片手に答える。
「わからんで。だってあのアイドルの子、田舎から出てきたんやろ?都会の悪い男に唆されて、甘いこと言われて落ちたかも知らんやん。なあ歩」
「知るか。他人の噂話に興味ねぇよ」
「うわ、ドライな意見。でもええよなぁ……みんなの憧れのアイドルを自分のもんにできるなんて」
ほうっと息を吐いた幸がグラスを空にし、それに歩がおかわりを入れてやった。どうやらこの3人は酒に強いみたいで、ぐいぐい飲んではグラスを空け、すぐに誰かが新しいものを注ぐ。
そして話題はゴシップや政治の話や、スポーツの話などばらばらだ。
そこに割って入れるわけもなく、ぼんやりと眺めること数分。ふと鋭い視線を感じてキッチンに目を向けると、美馬さんの強烈に尖ったそれが桃ちゃんに向かっていた。
「豊、顔が怖い」
美馬さんの隣に立って野菜を洗っていたリカちゃんが苦笑して言うけれど。
「桃のあのペース、確実に潰れる。面倒事が増えるのは嫌だ」
「それがわかってるから予防策とってんだよ。ソファのカバーもカーテンも、安物に変えてあるから今日は好きにすればいい」
「リカはそうでも俺は違う。酔っぱらったあいつに絡まれるのは、絶対に嫌だ」
俺は時々、美馬さんは桃ちゃんのお父さんでお母さんだなって思うことがある。それがお兄ちゃんの立場だと思えないのは、余りにも美馬さんの怒り方が怖いからだ。
そんな怖い美馬さんを扱えるのは、ここには1人しかいない。
「はい豊さん、怖い顔しながら作った料理なんて美味しくないよ。スマイル、スマイル」
頭1つ分ほど背の低い拓海が美馬さんの肩を叩き、自分の顔を指さす。横顔でもわかるほどにっこりと笑った拓海は、美馬さんに向かって「スマイルどうぞ」と促した。
それを聞いてぎこちなくも笑う美馬さん。拓海はあまり美馬さんとのことを話さないけれど、2人が漂わせる雰囲気から上手くいっていることがわかる。
俺みたいに言葉の迷子にならない拓海と、リカちゃんと違って隠し事が上手くない美馬さんだから……なのかもしれない。仲の良さそうな2人にホッとしたのは、多分俺自身に少し余裕ができたからだ。
周りを見回すと、少し前には気づかなかったことが見えてくる。
桃ちゃんは大きな声で騒ぎながらも、人のことを悪悔いわない。それが見ず知らずのアイドルや、評判の悪い政治家相手でも変わらない。
幸は一見すると軽口ばかり話してるのに、ちゃんと歩にも話を振る。誰かばかりが聞き役になるんじゃなく、強引にでも和に入れ込む。
そして歩は、くだらない、興味ないって言いながらも話を聞く。どれだけ咄嗟に話を振られても答えられるのは、ちゃんと耳を傾けてるからだ。
キッチンに立つ美馬さんは、桃ちゃんを睨みはするけど止めない。楽しそうな雰囲気をぶち壊したりしない。
そんな美馬さんを宥めて笑顔にさせて、空気を穏やかにする拓海。
俺の周りにいる人たちは、騒がしくて楽しくて、煩くて、それでいて優しい。
みんな違って、みんな個性的で、でも今日も上手く関係は続いている。
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