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視界いっぱいに映るリカちゃんが、不貞腐れた顔から苦笑いに変わる。少しだけ気の抜けた口元が、緩く開いた。
「慧君が俺に秘密って言うと、何か嫌な気分になるね」
「いつも秘密ばっかりのやつが言う台詞じゃねぇな」
「俺のは秘密じゃなくて、言う必要がないだけだから」
「それを屁理屈って言うんだよ。リカちゃんはそればっかりだ」
そう言いながらも、リカちゃんが俺に秘密を作るのは、俺の為だってわかってるわけで。
不快にならない隠しごともあるんだって、そう思えるようになったのは俺が成長したからかもしれない。
なんて、自意識過剰だって笑われそうだから言わないけれど。
これから先。いつまでもリカちゃんの隣で、小さな小さな成長を積み重ねていく。その度に褒めてくれる人がいる。もう子供じゃないんだからって周りが言っても、些細なことに心配してくれる人がいる。
解けた心が告げてくるのは、こういう時ぐらい素直になるべきだって余計なアドバイスだ。
「なんか、好きだなぁと思って」
でも最後まで素直になれなくて、大事な部分をはぐらかすと、リカちゃんの長い指が俺の前髪を掻き分けた。
「俺も好き」
返って来たのは予想していなかったような、予想していたような言葉。アドバイスを無視した俺を、リカちゃんは無視しない。全部、わかっていたことだ。
「別にリカちゃんのことじゃないんだけど」
「うん。けど、それでも俺は慧君が好きだよ」
「だから、リカちゃんのことじゃ……」
言いかけて無駄だと思ったから止める。別にリカちゃんのことを言ったわけじゃないけど、リカちゃんのことが好きなことには違いないから。
頬杖を付いて身体ごと背けた俺の頭を、仕方ないとばかりに一撫でしてリカちゃんが離れた。俺を心配して来てくれたのか、またキッチンに戻って、美馬さんと拓海と会話を始める。
目の前では酒に強いと思っていた幸が酔って泣き出し、それに桃ちゃんが釣られて。2人に絡まれる歩が嫌そうにしながらも相手をしていて。
とてもうるさいのに、穏やかだ。思い描いていた『普通の生活』ではないけれど、思い描いていた以上に満たされている自分がいる。
目に見えないものなんて信じない。人は簡単に裏切るから、誰かを信じて傷つくのは自分だ。だから無難に生きて、そこそこな生活をして、自分をわかってくれる人と、必要な時だけ一緒にいればいい。
そう思っていた過去の自分。もしあの時の俺に会ったら、鼻で笑って言ってやろうと思う。
『変に強がってないで、少しぐらい素直になれよバーカ』って。
誰かの為に生きること。誰かが自分の為に生きてくれていること。
その喜びを教えてくれた『先生』直伝の嫌味で俺様な言葉で言ってやるんだ。
でも今は、今を楽しみたい。偉そうで口が悪くて、けどいつも助けてくれた友達を助けてやろうと思う。
「おい幸。絡むのもいい加減にしないと、歩がそろそろキレる」
泣きながら歩に縋る赤髪に話しかけると、涙で潤んだ瞳がこちらを向く。それから「やっとかよ」と呟いた金髪の呆れた目も。
格好の餌食を見つけた歩と幸に声をかけるんじゃなかったと後悔し、なぜかワインを勧めてくる桃ちゃんから逃げ、やっと届いた料理を拓海がテーブルに並べた時には完全に場が出来上がった状態で。
それを怖い顔をしながら見守る美馬さんが、ちょっとだけ不憫に思える。
楽しいような疲れるような、色んな感情を抱えながらリカちゃんを見れば、うっとりするほど綺麗に笑った黒い瞳が俺を映す。
ああ、その顔が1番好きなんだって思ったことが、この日1番の秘密になった。
たくさん怒って笑って、時々悩んで喧嘩して。その度にリカちゃんの重たすぎる愛情を思い知らされて。
2年後、やっとその時を迎える。
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