アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
18.昔の俺じゃない
-
「んぬっ?!」
どこから出たんだって声が喉の奥の奥で鳴り、咄嗟に起き上がろうとした身体が、ビクともしない。ソファから押し上がろうと突っぱねた腕は曲がったまま、うつ伏せの上半身を支えることはできなかった。
その理由は、リカちゃんが押さえてきやがるから。
優しいけれど有無を言わせないほどに強く、でも丁寧という器用すぎる力加減で俺の動きを封じたからだ。
「リカちゃんっ、押さえられると……っ、起き上がれないんだけど」
「なんで起きる必要があるの?ちょうど身体の外側を解したから、次は中から施術しようと思ってるのに」
「そういうのを聞いてるんじゃなくて。なんかお前が言うとエロい」
「ほら。病は気からって言うしね。心の疲れやストレスは、肉体の不調と密接な関係にあるんだよ」
「いや、だからさ。この場面で専門的なことを言われても、こっちは困るだけなんだってば」
リカちゃんはさも当然のことのように言い退け、手のひら全体を使って穿いていたハーフパンツをずり下ろそうとする。
風呂上がりで汗を落としたばかりの俺の肌は何の抵抗もせず、スルスルと音もなくリカちゃんの行動に従った。
情けないことに秒の速さで半ケツにされてしまった。
「うん、肌の質は良い。弾力も色も、全てがパーフェクト。さすが慧君」
「それは……どうも…って言うべきなのか?」
「まあ、欲を言うならもう少し太っても良いかとは思うけどね」
「それ言うならパーフェクトじゃねぇだろ。どっちなんだよ」
全く噛み合っていない会話を続けながら、身動きが出来ないから首だけで振り返る俺と、俺を宥めるリカちゃん。
2人の視線が交錯する。目と目が合って、言葉を交わして、素肌に触れて。
リカちゃんは俺を変わらないと言うけれど、それはリカちゃんこそだと思う。
こいつと出会ってから数年が経った。その数年の間……ううん。今まで生きてきた中で、俺はここまで変化のない人間を他に知らない。
それは見た目だけに限らず、言葉も思考もだ。リカちゃんが言う『日々の積み重ねが大切』を、俺は何度聞いただろうか。何度、教えられただろうか。
高校生の時も大学生の時も。試験勉強に追われていた時も、不採用でフリーターになった時も。
日々の積み重ねが物事の結果を左右するんだって、リカちゃんは俺によく言った。俺はそんなことわかったつもりで、けれど結果が伴わないことが多くて。
いつも、積み重ねたつもりでいたんだと思う。見えないものを積むなんて、俺には出来るわけがなかったのに。
『慧君が慧君であれば、俺は何も問題ないよ』
不採用が決まったあの日にリカちゃんが言った言葉。
俺のそのままを全て受け入れるリカちゃんの言葉。
黙って頷くしかできなかった俺を、安心させてくれた言葉だ。
そして、その言葉は時間が経つにつれ俺を焦らせるようになった。環境と状況が変わっていく中で、俺だけがずっと同じ場所に立っていることに、自分自身が気づいているからだ。
もう、何も見ないフリで逃げれていた昔とは違うんだ。
進路で悩むのとは訳が違うんだ。
自分で自分の人生を考え、選択し、責任を持つ。
今の俺は、それから逃げたくて仕方ない。
変わらないリカちゃんと、変われなない自分との差から逃げたくて仕方ない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1111 / 1234