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23.汚れた魚
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翌朝。とは言っても、もちろん起きたのは昼だ。当然、リカちゃんはいなかった。
妙にすっきりとした下半身と、更に悶々としている心のアンバランスさに悩まされながら、俺はいつも通り電車に揺られていた。
車両の隅っこに立ち、何気なく周りを見れば知らない顔ばかりだ。今後どこかですれ違っても、俺は同じ電車に乗っていた人間だとは気づかないだろう。
髪の色も顔の造りも、体格も。着ている服でさえもどうでもいい。自分の支度をするのすら面倒な俺が、他人に関心なんてもてるわけがない。
そんな乗客AやB、Cと一緒に揺られ、今日も仕事場である塾の最寄り駅へと向かう。耳に残らない機械音でのアナウンスに促されてドアを出て、すぐ近くにあるエスカレーターで上へと向かって。
「おはよー、兎丸」
いつもと変わらないはずの通勤路で、いつもはかけられない声を背中に受けた。振り返って見れば、スーツと呼ぶにはラフで、私服と呼ぶには綺麗な格好をした魚住がいる。
しかも、すっげぇ眠たそうな顔で。
「魚住……なんでこんな早くからお前に会わなきゃ駄目なんだよ。いつもはもっと遅い電車で来るくせに」
「うわ、兎丸にそんなに嫌そうな顔と声で言われたら逆に嬉しい」
「黙れ変態。今すぐ痴漢で捕まって、そこの駅員質で処刑されろ」
「ちょっと兎丸君。それって冤罪もいいところじゃないか?仮に捕まったとしても、俺は断固として無罪を主張し続けるよ」
ふん、と大げさに胸を張った魚住から香る、知らない匂い。やたらと甘くて、明らかに女物のそれに俺の鼻が鳴る。
「今日の魚住すげぇ臭い。半径5メートルは俺に近づくなよ」
「半径5メートルが近づけなかったら、どうやって会話しろと?」
「つまりは、今日は俺に話しかけるなってことだ。できれば今日だけじゃなくて明日も明後日も、来週も再来週も」
近くにいるだけで移ってしまいそうな匂いに、思わず鼻を隠す。すると俺のそんな仕草を見た魚住が、大きく頷いた。
「ああ、この匂いな……。本当、嫌になるよ。まさか家の芳香剤から使ってる洗剤まで、全部同じブランドの商品だとは思わなかった。気に入ってる香水らしくてさ、揃えてやがんの。無駄なことに金使ってないで、貯金でもしろって話だよな」
「魚住……お前、誰の話してんの?確か、彼女とは別れたって言ってなかった?」
「いわゆる単発彼女な。飲み会で気が合って、気づけば身体も合ってた的な」
「黙れ、ゲス野郎が。マジで処刑されろ」
つまりは。
魚住は昨夜飲み会をして、そこで女の子と仲良くなり、そのまま彼女の家に行ったらしい。その彼女が匂いに気を遣う子で、お気に入りの香りで統一していて、魚住にも移った……という話。
なんだか仕事前にしては色っぽい話なのに、魚住が言うと下衆さが増すのはなぜだろう。
日中の駅の構内で、周りにもたくさん人がいて、至って平凡な状況。なのに、魚住だけが薄汚れて見えた。
「たかがお持ち帰りされてヤッただけなのに処刑?あ、朝も1回したから、その名残があるとか?ほら、漏れ出る気だるげなフェロモンってやつに、兎丸君もメロメロ」
偶然そう見えたんじゃなく、俺の勘違いでもない。
魚住自体が薄汚れているんだ。間違いない。
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