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72.必要とされたい
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『あの女を抱えて行った男の方が、俺の恋人なんだよ』
そう言えない代わりに、俺は別の言葉を口にする。
「あいつなら大丈夫だから。俺は何も心配なんかしてない」
否定もせず、訂正もしない。少しの嘘を混ぜて言った俺に、彼女は言い返してきた。
「兎丸先生には悪いけどさ。先生の彼女、私はあんまり好きじゃないと言うか……多分、女ウケは悪いと思う」
「それ、本人も似たようなこと言ってた。自分はサバサバしてるから、女の友達が少ないって」
「うわ出た。同性に嫌われるのって、サバサバしてるのが理由じゃないでしょ。それを自分で言ってる時点でサバサバしてないじゃん。ってか嫌われてる自覚あるんだ、あんな人でも」
「お前、さすがにあんな人呼ばわりはダメだろ」
素直すぎる彼女に指摘すると、ごめんと軽く手を合わせて謝る。けれどその表情は、悪いとは思っていない顔だった。
「まあ俺も蛇光さんはきら……苦手だけど」
「え?先生、あの人のこと苦手なのに付き合ってるの?」
「もうその話はいいや。とにかく行くぞ」
すたすたと歩いて先へ進む。進めば進むほどリカちゃんからは遠くなるのに、後ろを振り返る勇気はない。
だから前へ進むしかなくて、でも本当は不安で仕方なくて。諦め悪くも、ここで待っていればリカちゃんが戻ってくるんじゃないかとも考えていた。
そんな俺の心を見透かしたかのように、服の裾が引っ張られた。
「先生、歩きながらでいいから話していい?ほら、勝手に話すから先生聞き流してくれてもいいし」
空元気でわざと明るく振る舞う声に、身体が自然と動く。さっきまで見るのが怖くて仕方なかった後ろを振り返ると、俯いて肩を落とす彼女がいた。
その先にはもちろん、リカちゃんはいない。
ここには俺と、俺のことを先生って呼ぶ子しかいない。
「勝手に話すなら、いちいち俺に聞かなくていいだろ。今までだって勝手に話してたんだから、お前の好きなようにすれば?」
やっぱり俺は優しくなんかできないし、何を言われたところで頼りがいのあるアドバイスなんて思いつかない。どうすればいいって聞かれても、俺にはわからないって答える自信しかない。
けれど、こんな俺でもこの子は必要としてくれる。
必要としてくれる人がいることは、とても嬉しいことだ。
話をしたいなら歩けと促すと、女子高生は今度こそ素直に従ってくれた。
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