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108.エッチなランチ
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恋人たちのパスタランチだなんて名前だけれど、実際にはサラダとパスタが出てきただけだった。サラダに入っていた人参がハート型だったり、パスタの横にハート型に焼き目のついたパンが添えられたりしていたけれど、それ以外は普通のランチメニューだったらしい。
それはふざけた名前の割に中身は本格的で、リカちゃんも上手いと言うぐらいのもので。デザートに出てきたガラスの靴のパフェも白雪姫のアップルタルトも、どうしてそんな名前にしてしまったんだ、とツッコミを入れたくなるぐらいレベルが高かった……らしい。
俺がそれを『らしい』と付けるのには理由がある。
「全然食った気がしない……」
パスタも、デザートもきちんと完食したはずなのに、全く食べた気がしない。サラダは断固として拒否したけれど、パスタは俺の方が多く食べたのに……理由はそんなことじゃない。
項垂れる俺の隣で、リカちゃんが優雅にコーヒーを飲んでいる。原因はこいつだ。
「慧君。食べた気がしないって、もしかして量が少なかった?やっぱり男2人でのシェアだと物足りなかったかな」
「そうじゃない。そもそも、これは量の問題じゃない」
「じゃあ味付け?でも、いつも俺が作る物より濃いめだったと思うけれど」
「味でもない。量でも味でもなくて、食べ方の問題だ」
あんなクソふざけた名前の料理を出す店だ。ぶっ飛んでるのは料理と席だけじゃなく、その他にもあった。
「なんでフォークとスプーンが1組ずつしか出て来ねぇんだよ……」
料理と一緒に出されたフォークやスプーンは1人分のみ。つまり2人で同じものを使えってことらしいけれど、さすがにそれはないだろうって俺は思う。
「いくら付き合ってても食器は別々のを使いたいだろ……普通」
「その点に関しては慧君の意見も正しい。でも俺は、慧君の使った食器なら喜んで使わせてもらうけどね」
「お前はな。お前はそうだろうけど、俺は嫌だ。自分のペースで自分の好きなものを食べたい」
頼めば新しいフォークも貰えただろうけれど、俺にそんな勇気はなかった。だって、ただでさえ男2人で目立っているのに、そんな状況で店員に声をかけるなんて出来るわけがない。
そして気を利かせたリカちゃんが、俺の代わりに頼んでくれることもない。
俺にできたのは黙って俯くことと、食べさせようとするリカちゃんに文句を言うこと。それから、人参も食べろとしつこいリカちゃんに殴って文句を言うことだけだ。
「それでも。世の中のカップルはこういうのを楽しんでるんだって知れて、俺としては満足かな」
コーヒーを飲み終えたリカちゃんが言う。俺は目の前に置かれた『乙女のロイヤルミルクティー』をストローで回しながら、少し考えてみた。
ちなみに、乙女のロイヤルミルクティーとはミルクティー自体は普通のものだけれど、付属のクッキーがハート型だった。しかもそれには「EAT ME」と書かれていて、本来ならそのクッキーを口に咥えて相手からのキスを待つものらしい。
ガチ中のガチでの「EAT ME」だ。
説明書のような紙に書かれていたこの内容を読んだ瞬間、俺はクッキーを即座に噛み砕いてやったけれど。これを本当にするやつがいたら、正気じゃないと思う。
……っていうどうでもいい話は置いておいて。
もっと正気じゃない男を見る。隣に座ってテーブルに肘をつき頬杖をついて。ここから見える白い花を、小さくて可愛いって笑いながら、でも慧君の方が可愛いとか言ってやがる男を。
ストローを咥えながら俺は見つめる。
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